「社員は不安のどん底」……。1980年の創業以来、石油ボイラーの販売を手掛けてきた長府工産。市場の変化に耐えられず、業績は低迷、退職者も続出していた。倒産寸前の同社が立て直しのために呼んだのは、「私は退きます」と、2年ほど前に会社を去っていた元専務の伊奈紀道氏。同氏の経営手腕はいかほどだったのか。ノンフィクション作家である神山典士が取材した。

「誰かが言ってくれ」迷惑な商品に社員皆が目を瞑った

それは伊奈にとっても驚きの発言だった。その石油ボイラーの不具合について聞いてはいたが、まさか社長の自分に具体的な商品名を挙げて直言する社員がいたとは。しかも若手だ。その時から伊奈は「山本真吾」という若手社員を意識するようになる。山本が当時を振り返る。

 

「東北の会議で、私は初めて会った社長に意見しました。もうあの商品は無理でしょうと。前の社長のときからあの商品を扱うのは大変でした。なぜなら売ったあとの故障が多くてものすごくお客さまを困らせていたんです。でもなぜか会社は扱いをやめない。誰も社長に直訴できない。そんな状態でした。ところが2007年に伊奈社長が戻ってきたときに、直感的に言いやすい人だな、初めて意見が言える人が登場したなと感じたんです。だからあの時は、絶対に直訴して取り扱いをやめないといけない。あの商品をやめるには今日自分が言うしかないと、使命感にも似たものを感じていました」

 

当時の長府工産の営業のメイン品目は石油給湯機だった。50~60種類の商品ラインナップがあったが、そのなかの一つが山本の言うお客さまに迷惑をかける商品だった。

 

本来なら10年もつはずのところが普通に使っていても5年しかもたない。皆その弊害を思っていた。けれど上司に言ってもその意見は通らない。だから諦めていた。誰もが上層部の誰かがその扱いをやめてくれる日を待っていた。だが他人頼みでは物事は進まない。

 

そこに現れた伊奈は、山本の直訴を聞くと黙って頷いた。伊奈もその弊害は分かっていたのだ。そのことが社内に広まることで、「今度の社長は話が分かる」と、さらに社員の期待感も増していく。社員と仲間(アソシエイト)になりたい、という伊奈の願いは、決して媚を売るという意味ではなく、こんなことを重ねながら少しずつ社内に浸透していった。

SDGsに注目集まる中…「化石燃料」の未来は

■エコに向かう市場の変化に寄り添う〜石油ボイラー一辺倒からの脱却

 

――今後のわが社は石油ボイラー一辺倒ではなく、市場の求めているものにアプローチしていこう。

 

社長就任直後の伊奈のこの言葉は、決して目の前の市場の動きだけから生まれたわけではなかった。折しも新社長伊奈の登場は、世界的な「エコ、持続可能な開発目標(SDGs)」の歩みと歩調を合わせている。伊奈が専務として長府工産を仕切っていた時代に、すでに世界は大きく動いていた。

 

人類が経験したことのない異常気象(気候変動)への警鐘は、1997年に京都で開かれた「気候変動枠組条約第三回締約国会議(COP3)」において採択された「京都議定書」によって示された、先進国全体で温室効果ガスの排出量を1990年比で5%減少させること。その目標に向かって人類全体が知恵を絞り汗を流すことがうたわれたのだ。

 

すでに1992年には、京都議定書締結の根拠となる「気候変動枠組条約」が採択されていた。大気中の温室効果ガスの濃度を安定させないことには、この星の未来はない。70億人の人類が一丸となってこの目標に向かわなければ、人類の未来もない。世界レベルで初めて大きな潮流ができたのはこのときだった。

 

もちろん周知のように、この後大国間で経済的影響から対立が表面化。2001年には超大国アメリカが京都議定書から離脱を表明するなど、その後もこの潮流は一筋縄では進んでいない。だが専務時代から、伊奈はこの大きな流れを「自分ごと」として感じていた。

 

――これからの世の中で、化石エネルギーで燃やすとCO2をまき散らす石油エネルギーは人気を失うだろう。代わって使われるようになるのは再生可能エネルギーだ。

 

すでにこの頃から、石油給湯機は市場規模を縮めつつあった。最盛期には年間90万台も売れていた給湯機市場が40万台へと半減していたのだ。

 

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