消毒すべきは手、「プラスチック板」は消毒の必要なし
次に接触感染について説明しておきたいと思います。接触感染とは、感染者の飛沫に触れて起きる感染です。
飛沫がどこかに落ちたあと、その中にいるウイルスはしばらく生き延びます。新型コロナウイルスがどれくらい生きるのか、これはまだハッキリと分かっていませんが、数日は生きると言われています(最長で数週間生きていたというデータもあります)。
飛沫がついた「モノ」に触り、その手で食事をする、目をこする、鼻を触るといったことで、ウイルスはその人の体内に入ります。これが接触感染です。ウイルスが手についただけでは――そこに傷があるといった例外を除けば――感染は起こりません。
ですから、外出先で何かに触ることを極端に恐れる必要はありません。まずは手で口や鼻を触らないように意識する。帰宅したとき、あるいは食事の前などにしっかり手指消毒をする。それが有効かつ現実的な感染経路の遮断です。話は少し逸れますが、緊急事態宣言が出た頃から、透明なビニールのシートをレジに設置するお店が増えました。飲食店の客席にはプラスチックやアクリルなどのついたてが置かれるようにもなりました。
どちらも、とてもいい感染対策です。充分な効果が期待できます。
以前、ある書店の人から「ビニールのシートはどれくらいの時間間隔で消毒すればいいでしょうか」と質問されたことがありますが、消毒する必要はありません。プラスチックやアクリルのついたても、やはり消毒はしなくてもいい。
これはよく誤解されるのですが、飛沫とは人間から発生するものです。ビニールやプラスチック、あるいはアクリルから飛沫が発生することはありません。そこに付着しているウイルスが突然「ヒュッ」と飛び上がって、人間の口の中に入ってくることも絶対にない。だから消毒をしなくてもいいわけです。せいぜい見た目が汚れてきたら、きれいにすれば良い。
ただし、そこに触ってはいけません。たとえばお店のビニールのシートなら、「ここに触らないでください」という張り紙をするなどの注意喚起は必要でしょう。
しかし、「触らないこと」を徹底できるなら、それ以上は何もしなくてもいいのです。床や壁も同じです。たとえそこに大量のウイルスがいたとしても、床に頰ずりをするとか、壁を舐なめたりしないかぎり、ウイルスは体内に入ってきません。したがって、消毒はしなくていい。床や壁を舐める人はまずいませんから、注意喚起をする必要もありません。
新型コロナの感染拡大が始まってから、さまざまな施設で消毒が行なわれるようになりました。もちろんそれは間違いではありませんが、何事にも加減というものがあります。
たとえばスーパーのように日常的に衛生に注意しているところであっても、毎日すべての商品を消毒するとか、レジの小銭をすべて消毒するといった対応は事実上不可能でしょう。無理なことを無理してやることはありません。
そうそう、スーパーのレジ係の方が手袋をしているケースも多いですが、あれもほとんど意味がありません。手袋をしていても、その手袋表面にウイルスが付着していないという保証はないのですから。「やってる感」が醸し出されているだけです。
だから、レジ係の人は頻繁に手指消毒をしてもらうとして、我々客は店を出るときか、帰宅したときに手指消毒をする。ここでも「手」を基本にしたほうが合理的、かつ効果的です。
消毒については、モノではなく「手」を基準に考えると楽になります。先ほども書いたとおり、手にウイルスがついただけでは感染は起こりません。ですから、不特定多数が触るモノに触れたときは、手指を消毒すればいいわけです。
「できるかぎりたくさんのモノを消毒する」という足し算をしていくと、キリがありません。そうではなく「何をしなくてすむか」という引き算の発想が、感染対策では大切です。
岩田 健太郎
神戸大学病院感染症内科 教授