コロナ対策「マスクは本当に効果があるのか?」感染症医の答え (※画像はイメージです/PIXTA)

「結局マスクはつければいいの? つけなくてもいいの?」という質問は、「傘は差したほうがいいのか」という疑問に似ている、と感染症医である筆者は述べます。状況によって効果を強く発揮したり、あまりしなかったりするということです。「マスクにより利益が得られる状況」について見ていきましょう。※本記事は、岩田健太郎氏の著書『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』(集英社インターナショナル、2020年12月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

マスク「感染者がほどほどに多い」状況にのみ効果発揮

次に、マスクについて説明してみたいと思います。複数の分析をまとめ、それを巨大なデータとして活用分析することを「メタ分析」といいます。マスクの防御効果については、メタ分析がすでに出ています※1。結論から書くと、医療機関においてはマスクは有効です。

 

※1 Chu DK, Akl EA, Duda S, Solo K, Yaacoub S, Schünemann HJ, et al. “Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis.” The Lancet [Internet]. 2020 Jun 1[cited 2020 Jun 27];0(0). Available from:https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31142-9/abstract

 

上述したメタ分析では、MERS(中東呼吸器症候群)、SARS(重症急性呼吸器症候群)、そして新型コロナウイルスについて調べています。つまり新型コロナのみのデータではないわけです。

 

医療機関内でこれらの感染症にかかるリスクは、マスクによって減らせることが明らかにされています(※2 論文のFigure4)

 

※2 Bae S, Kim M-C, Kim JY, Cha H-H, Lim JS, Jung J, et al. “Effectiveness of Surgical and Cotton Masks in Blocking SARS-CoV-2: A Controlled Comparison in 4 Patients.” Annals of Internal Medicine[Internet]. 2020 Apr 6[cited 2020 Jul 7]; Available from: https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-1342

 

では、一般の社会ではどうか。これは微妙です。まずデータが少ない。このメタ分析では、3つの臨床研究の結果が示されているのみです。いずれもSARSに関するデータで、「マスクは一般社会でどれだけ新型コロナに有効か」ということは示されていません。SARSのデータでは、市中でのマスクの防止効果は「ある」と示されています。

 

具体的には、マスクをした244人のうち37人に感染が見られました(感染者は約15パーセント)。マスクをしていない481人のうち101人に感染が見られました(感染者は約21パーセント)。つまり、マスクによって感染リスクが6パーセント減っていたわけです。6パーセントという数字を小さいと見る人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。マスクをしていない人の21パーセントが感染する状況というのは、マスクをしていない100人のうち21人が感染する状況です。

 

言うまでもなく、これはきわめて深刻な事態です。そうした事態において、医療機関の負担はできるかぎり小さくしなければなりません。100人中6人の感染者を減らせるのであれば、絶大な効果だと言えます。

 

とはいえ、感染をゼロにしたわけでもありません。データをもう一度よく見ると、マスクを着用しても244人のうち37人(15パーセント)は感染しています。リスクヘッジの手法として、マスクは決定打になっていなかったわけです。

 

先ほど述べたとおり、これはSARSに関するデータです。新型コロナに対してマスクはどれだけ有効かというと、医療機関の「外」では不明です。医療機関の「中」では確かな効果がある。なぜそのような結果になったのか。簡単に言うと、病院内ではデータが集めやすく、対象者を追跡しやすいからです。

 

それから、病院には感染者がたくさんいます。つまり感染リスクが高い。感染リスクが高ければ高いほどマスクの効果は出やすいし、感染リスクが低い状況下ではマスクの防御効果は示しにくいわけです。

 

ゴチャゴチャとした話になってしまったので、整理してみましょう。

 

感染者が少ないコミュニティでは、マスクをしても感染リスクはほとんど減りません。場合によってはまったく減らない。もともと低いリスクをさらに減らすのは難しいからです。感染者が多いコミュニティでは、マスクによってリスクを軽減できます。しかし、感染者が爆発的に増えているコミュニティでは、マスクでの防御にはほとんど期待できません。

 

つまり、マスクによって利益が得られる状況の幅は狭いのです。感染者がほどほど多く、かといって多すぎない中くらいの状況下でのみマスクは効果を発揮すると言えます。ちなみに、医療現場で使われるN95マスクは、ウイルスの侵入をほぼ防御できます。ですから、コミュニティの全員がN95をつけていれば――理論上は――100パーセントに近い感染防御ができるでしょう。理論上は、とわざわざ書いたのは、それが現実的ではないからです。

 

N95はあまりにも密閉性が高いため、まともに呼吸ができません。僕個人の感覚としては、装着していられるのは一時間が限度です。息が苦しくて、とてもそれ以上はつけてはいられません。ようするに、一般の人が日常的に使うことはできないわけです。

 

新型コロナの感染拡大が始まってから、N95をつけて町を歩いている人をときどき見かけるようになりましたが、僕が見たかぎり正しく装着していた人はまずいません。ほとんどの人は、呼吸を楽にするために隙間を作っている。それでは感染防御はできません。

神戸大学病院感染症内科 教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。著書に『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)、『感染症は実在しない』(インターナショナル新書)、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』(光文社新書)など多数。

著者紹介

連載感染症専門の内科医が「PCR」原理主義に反対する理由

僕が「PCR」原理主義に反対する理由 幻想と欲望のコロナウイルス

僕が「PCR」原理主義に反対する理由 幻想と欲望のコロナウイルス

岩田 健太郎

集英社インターナショナル

なぜ、ノーベル賞科学者でさえも「コロナウイルス」が分からないのか? その理由は日本人独特の「検査至上主義」にあった! 人間の体は宇宙よりも謎に満ちていて、素粒子よりも捉えがたい。そのことを知らないで、「机上の…

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