布マスクなど「安心するが効果はない」ものに注意
ビニールのシートはまさに感染経路の遮断であるわけですが、実は病院のゾーニングではレッドゾーン(感染者がいるエリア)とグリーンゾーン(感染者がいないエリア)の境界には「ビニール」のような物理的な仕切りは、僕らは付けていません。なぜか。
仕切りを作ると、かえって危険だからです。たとえばビニールシートを天井から吊り下げて仕切りを作ったら、レッドゾーンに出入りする人は、その時にビニールを触ることになります。つまり接触感染のリスクが高くなる。
ゾーニングをするときに「何か仕切りを作ったほうがいいのではないか」という意見が出ることがあります。「レッドゾーンとグリーンゾーンの境界に何もないのは不安です」と言う人もいます。
しかし、ウイルスはレッドゾーンにいる患者さんからはるばる飛んでくるわけではありません。またN95マスクをしている医療従事者の呼吸や咳から、ウイルスが飛び出すわけでもない。だから仕切りはいらないわけです。
「そこに何もないのは不安だ」という心理は分からないではないけれども、そうした不安には耐えなければいけません。大切なのは、事実と科学にもとづいた対策です。不安をやわらげるためには、事実と科学に目を向けなければいけない。形だけの安心はかえって逆効果です。
典型的なのが例のアベノマスクです。布マスクには感染を防ぐ効果はまるでありません。しかし、布マスクをつけたことで安心する人がいます。布マスクが安心材料になって人との距離を縮めてしまったら、完全に逆効果です。
「不安はやわらげるけれど効果はない」という習慣は、徹頭徹尾、捨てなければいけません。余談ですが、武漢市で新型コロナ感染が急拡大していた2020年1月、僕はツイッターにこんな投稿をしました。
「武漢でジョギングはありだと思います」結果は「炎上」でした。岩田は噓つきだとかインチキだとかさんざんに言われてしまった。でも実際には武漢市における感染拡大がどんなに深刻な状況であったとしても、誰もいない夜道でのジョギングにリスクはありません。感染症学の基本を無視し、直感や雰囲気で感染リスクを断定するのは間違っています。
理由はさっき書いたのと同じです。そこにウイルスがいることと、感染が起こることは同じではないのです。にもかかわらず僕のツイートが炎上してしまったのは、新型コロナは空気感染するものだと誤解している人が多いからだと思います。