20年、30年後も人口を維持できる地域を探す
医師に限らず、一般的に初めて収益物件を買おうとする人は、自宅周辺で探そうとします。土地勘があることや常に管理状態を確認したいからでしょう。その気持ちはよく分かります。
しかし、「駅近」で「割安」といった理想的な条件の物件は、当然ながらなかなか見つからないものです。自身の土地勘があるようなエリア内で物件を探すのは、あまりにも範囲が狭いといえるでしょう。
すでに説明しましたが、収益物件を探すならその範囲は全国、または世界に目を向けるべきです。なぜなら土地選びでもっとも重要なことは、住宅の需要が多く見込めること。たとえ空室になったとしても、すぐに次の入居者が見つかる可能性が高い人口密集地であることです。しかも収益物件の経営は、20年、30年と長期にわたるので、その時点でも人口を維持していることが必須条件になります。
人口減少率が低いのは東京・神奈川・埼玉・千葉
ところが今後、日本の人口は減っていくことが予想されており、国立社会保障・人口問題研究所では、次のような推計を公表しています(2012年3月)。
2010年の人口1億2805万7000人を100とすると・・・
2025年の人口は1億2065万9000人で94.2
2040年の人口は1億727万6000人で83.8
30年間でおよそ2割減ってしまうといわれているのです。
しかし、地域によっては減少率が低いところがあります。それは東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県です。
東京都は2025年まで現状維持で2040年でも93.5
神奈川県は2025年まで99.6でほぼ現状維持、2040年でも92.2。
埼玉県は2025年で97.2、2040年でも87.6
千葉県は2025年で96.3、2040年でも86.2
これらの都県は、全国平均よりも減少率が低く推計されています。地方で同じように2040年の減少率が低い県は、愛知県(92.5%)、福岡県(86.3%)などです。このような数字から1都3県をはじめ大都市圏が、収益物件を経営するうえで理想的な立地であるといえます。
「周辺エリアの医師の数」と「コンセプト」で差別化
とはいえ、これはあくまで一般論です。たしかに人口が多い場所の物件を買うことは確実な戦略であり、収益物件を取り扱う不動産業者のほとんどは、この立地条件にプラスして利回りの高さを売り文句として営業を展開しています。
しかし、人口減に突入した昨今、この「立地+利回り」だけでは黒字経営を維持するのは困難です。この2つの条件にプラスして周辺のライバル物件と差別化できる何かが必要なのです。そして、この差別化が図れる「何か」とは、「周辺エリアの医師の数」そして「コンセプト」です。
たとえば埼玉県の例です。同県は2000年のさいたま新都心駅開業を機に、官公庁の関東地方出先機関などが進出し、ビジネス都市として急速な発展を遂げています。また、2001年には大宮市・浦和市・与野市が合併して、さいたま市が誕生。2005年には岩槻市を編入して全国で9番目に人口の多い都市となっています。
ところが、埼玉県はこの著しい人口増加に対して、病院数も医師数も追いついていないのが状況です。厚生労働省が発表している「人口10万人対医師数」(2014年)によると、人口10万人に対する医師数の全国平均は233.6人です。都道府県別だと京都府が307.9人ともっとも多く、次いで東京都が304.5人、徳島県が303.3人となっています。しかし、埼玉県は152.8人しかおらず、ワースト1位です。
医師不足によって病院の閉鎖、診療科の閉鎖・休止、さらに救急搬送拒否などの問題が発生しており、NICU(新生児特定集中治療室)が閉鎖されたまま再開の目処が立たないといった事態も発生しています。
このように、埼玉県は日本でもっとも医師が不足している県ですが、開業の際には成功率が高いエリアともいえます。収益物件の土地探しというと、人口密度の高いエリアにばかり目がいきがちです。しかし人口が多いエリアほど物件価格も高い。
ところが医師であれば人口密度と同じくらいそのエリアの「医師密度」も重要です。この基準は一般的な不動産価値とは違うので、医師にとっては魅力的な物件を安く購入することが可能になるわけです。そして将来、その物件を医療関係施設として開業すれば、不動産の価値は大きく高まります。
不動産運用で収益を上げる秘訣は、安く買ってその後に付加価値をつけることにあります。これは一般的には非常に高度なテクニックですが、医師ならば比較的容易に実現できるはずです。その付加価値が「コンセプト」です。
たとえ一般的には人気の低いエリアの物件でも、医師ならではのコンセプトがプラスされたとき、その物件は周辺のどの物件よりも収益率の良い存在になります。