医療と不動産を絡めた事業展開も考えられる
現物投資である不動産は、投資対象そのものに価値があり、株式のように紙くずになることはありません。また、巨大地震などの災害などに遭わない限り、物理的になくなってしまうことも、ほとんどないのです。それに、万が一災害によって大きな被害が出たとしても、保険に入っていれば資産のすべてを失うことはありません。
不動産の活用方法は無限大です。たとえば、医師である皆さんがこれから所有する不動産は、将来的に家賃収入を生むだけでなく、医師ならではの活用方法があります。それは医療と不動産を絡めた社会貢献です。
一般的に不動産のオーナーが事業展開を行う場合、業種としては不動産管理会社などの不動産関連業がほとんどです。しかし医師であれば、そのブランド力を活かしてほかにも実現できる事業展開があります。賃貸物件とクリニックの併設はもちろん、様々な形態の医療施設を開業することが可能だということです。
特養の入居待ち52万人超、高齢者住居は不足している
ニュースや新聞で報道されるように、昨今は高齢化が進む一方で高齢者向け住宅が不足しています。内閣府の「平成27年版高齢社会白書」によると、2013年の高齢者(65歳以上)のいる世帯は2242万世帯で、全世帯の44.7%を占めています。2003年では1727万世帯でしたから、10年間で約30%も増加しているのです。
なかでも高齢者単独世帯は573万世帯(高齢者のいる世帯の25.6%)、高齢者の夫婦のみの世帯は697万世帯(高齢者のいる世帯の31.1%)となっており、半数以上が高齢者だけで暮らしていることになります。
また、総務省の「平成25年住宅・土地統計調査」によると、高齢者のいる世帯のうち持ち家は82.7%ですが、持ち家のバリアフリー化は進んでいません。2009年以降に高齢者のために工事(将来の備えを含む)を行った世帯は全体で13.3%、高齢者のいる世帯だけを見ても20%しかありません。
「平成25年度介護保険事業状況報告」によれば、2013年の65歳以上の第1号被保険者数はおよそ3200万人で、そのうち要介護認定者はおよそ580万人。さらに、このうちの7割以上が自宅で介護を受けています。特別養護老人ホームの入居待ちが52万人超と言われていることからも、いかに施設が不足しているかが分かります。
療養型病院を退院した後の受け皿となる「サ高住」
しかし、日本は1000兆円を超える多額の財政赤字を抱えており、人口減によって税収の増加も望めないことから、高齢者のケアを病院から在宅へとシフトさせることを目標に掲げています。2011年の「高齢者住まい法」改正によって創設された「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」も、その一つです。
このサ高住は療養型病院を退院した後の受け皿としても有効なので、医師がオーナーとなるのは理想的といえるのではないでしょうか。サ高住は建物に対してだけでなく、高齢者の生活支援にも様々な優遇措置が受けられる施設です。一般的な賃貸住宅の収益のほとんどは「家賃」ですが、この住宅では4つの収益構造が実現します。具体的には「診療報酬」「介護報酬」「生活支援サービスの対価」です。
このうち介護報酬とは、サ高住の事業者が、要介護または要支援者にサービスを提供した場合、その対価として事業者に支払われる報酬です。この報酬は3年ごとに見直され、サービス事業者がサービスを提供した場合の対価は、利用者が1割、保険者(市町村)が9割の負担となります(2015年8月より一定以上の収入がある利用者は2割負担)。
2015年度に見直された介護報酬は次のようになっています。
【身体介護が中心である場合】
所要時間20分未満の場合:165単位
所要時間20分以上30分未満の場合:245単位
所要時間30分以上1時間未満の場合:388単位
所要時間1時間以上の場合:564単位に所要時間1時間から計算して所要時間30分を増ごとに80単位を加算した単位数
【生活援助が中心である場合】
所要時間20分以上45分未満の場合:183単位
所要時間45分以上の場合:225単位
通院等のための乗車又は降車の介助が中心である場合:97単位
*単価は「単位」で表し、1単位は約10円
サービスを提供される側からすると、数多くのサービスが整っているほうが快適で、提供する側からするとより多くのサービスを提供するほど対価が得やすくなるわけです。