国を挙げて推進される「事業承継のためのM&A」
2つめの理由として、供給サイド、つまり売り手となる企業の増加があります。これもいくつかの側面にわけて考えられますが、一つは後継者不在に起因する事業承継のためのM&Aニーズの増加です。
これについては、詳述はしませんが、経産省・中小企業庁が中心となり、国を挙げて事業承継のためのM&Aを推進しています。別の側面としては、優秀な人材による起業が増えていることも挙げられるでしょう。
この背景には、すでに述べた日本型雇用慣行(働き手側からいうなら就労環境)の変化があります。富士通や朝日新聞社など、日本を代表するような企業で45歳前後の社員にリストラが実行され、トヨタ自動車の社長や経団連会長からも、これからは終身雇用が難しいと明言されるようになりました。
「大企業に就職すれば一生が安泰」という時代は完全に終わりを告げました。そういった雇用環境の変化の中で、大企業をスピンアウトして、あるいは、大企業に入社できる能力がありながら最初から就職を目指さずに起業家の道を選ぶ優秀な人材が増えています。さらに、副業解禁の流れのなかで、企業に勤めながら副業として起業をする人も出てきています。
実際、新設法人設立数は2010年以降2017年まで毎年増加してきました(18年以降は増減まちまち)。また、法人設立はしないまでも、いわゆるフリーランスやギグワーカーなども含めて個人事業主として働く人も増えています。こういった人たちは将来の起業予備軍とも考えられます。
M&A仲介という業態に対する社会的認知度の向上
3つめの理由として、M&Aの取引環境が充実・整備されてきたことも挙げられるでしょう。かつては、中堅・中小企業がM&Aをしたいと思っても、相談できる相手が限られていたため、実務的な面でのハードルが高い時代がありました。しかし、ここ数年でM&A仲介会社が急増し、業界大手のM&A仲介会社が何社も上場しています。
そこからM&A仲介という業態に対する社会的認知度が向上し、利用しやすい環境が整いました。さらにインターネットのWebサイト上でM&A案件が閲覧できるマッチングプラットフォームもいくつも登場しました。
なかには、Webサイト売買専門のマッチングプラットフォームもあります。こういったプラットフォームでのM&A取引はその性格上、主として小規模な案件が扱われますが、M&Aの裾野を広げる一環となっていることは間違いありません。
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