Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

オークション最高額は9107万5000ドル

消費社会における作品

 

2019年5月15日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された戦後・現代美術セールで、アメリカ人アーティスト、ジェフ・クーンズの《ラビット》が、9107万5000ドル(約100億円)で落札され、2018年デイヴィッド・ホックニーが記録した、現存するアーティストのオークションにおける過去最高額9031万2500ドル(約99億円)を更新しました。

 

この落札された《ラビット》は、1986年にクーンズが31歳のときに制作され、アメリカ人実業家のサミュエル・ニューハウス・ジュニアによって購入されましたが、ニューハウスが2017年に他界したことを受け、遺族がクリスティーズに出品していました。

 

アメリカ生まれのポップアーティストといえば、アンディ・ウォーホルが有名ですが、ウォーホルの精神を引き継いで、コマーシャリズムやエンターテインメントと真っ向勝負しながら作品を制作し続けてきたのが、ジェフ・クーンズです。クーンズの前歴は変わっていてニューヨーク証券取引所のストックトレーダーでした。

 

アート作品は、版画やブロンズ彫刻などは別にして、基本的にオリジナル1点だけだという。(※画像はイメージです/PIXTA)
アート作品は、版画やブロンズ彫刻などは別にして、基本的にオリジナル1点だけだという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

ウォーホルの後継者らしく、クーンズの作品はときにスキャンダラスでキッチュなもので、いくつもある代表作の中には、1991年の、イタリアのポルノ女優で国会議員だったチチョリーナとのからみを大型作品化した《メイド・イン・ヘブン》というものもあります。春画から着想したかのような性器の挿入場面を写した露骨なセックス描写で論争を巻き起こしましたが、この手のスキャンダルはクーンズの望むところです。

 

クーンズの《ラビット》は、うさぎのおもちゃを巨大化したステンレス製の彫刻で、一見、光沢のあるバルーンのように見える彼の代表作のひとつです。この作品の真骨頂は、ビニール製の銀色の風船、バルーンが、実はべらぼうに重い無垢のステンレスだったというところです。

 

見た目と実際の極端な違いは、作品を前にしたときに、より実感され、見るという行為がいかにいい加減かを知ることになります。その一方で戯画化された世界の儚さを感じる作品です。例えば、CNNのニュースのようにマスメディアは、人の死も戦争すらも見世物にして世界を劇場化させて、消費の対象にしてきましたが、そうした消費社会の、現実の重さと軽さを同時に表現しています。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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