こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

自信を持って自分の意見を発信していけばいい

民主主義は一人ひとりの貢献によって前進していく

 

現代に生きる人たちは、一つの缶詰の中に詰め込まれているようなものです。しかし、同じ缶詰の中にいても、見ている世界はそれぞれ異なります。むしろ違っているのが当然です。だから、独裁主義というものには意味がないのです。なぜなら、独裁主義では、誰に意見を聞いても、結局一つの答えしか返ってこないからです。それは本来、あり得ないことです。

 

一方、民主主義には多様な意見が存在するのが前提ですが、それが形式的なものにすぎない場合は大きな問題となります。つまり、お上が言うことを庶民が忖度して、「お上がAといえば、みんながA」になっているような状態です。このような社会では、選挙制度があっても投票は形式的なものにすぎません。このような民主主義であれば、まったく意味がないでしょう。

 

各人の世界を見る角度は異なっていて当然です。だから、意見をシェアしたときに、「私はみんなと違う」「私の考えは少数意見だ」と悲観する必要はありません。個人個人それぞれに物の見方は異なるので、本来、誰もがそれぞれの意見を持っているからです。

 

それでも自分の意見が少数に属することが気になるのであれば、そのときは「自分は他の人が思いつかないような物事の見方をしている」と思ってください。これこそがあなたの個性です。自信を持って自分の意見を発信していけばいいのです。

 

台湾で起こりがちな出来事は、このようなことです。車が違法駐車しているとか、道が陥没しているとか、道がデコボコだといった場合に、たとえ急いでいたとしても、多くの人が立ち止まって写真を撮り、市役所などに通報します。自分に直接利害のないことであっても、「これは政府の仕事だ」「その場所を所管する部門の仕事だ」とは考えずに、「自分の問題だ」と捉えて行動を起こすのです。道を歩いている誰もが、小さいながらも社会を良くすることに貢献しているわけです。

 

こうした気質を台湾では「鶏婆(ジーボー)」と言います。「母鶏のように、おせっかいでうるさい」という意味です。これは、「自分に直接関係することではなくても、能動的に貢献したい」という心持ちを表します。このような精神こそが、民主主義では非常に重要な要素の一つになると思います。

 

 

 

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

プレジデント社

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