現代日本人の約2800万人が発症している「腰痛」のうち、2~3%が「椎間板ヘルニア」だと言われています。しかし医師に相談しても、具体的な対処法がなかったり、一生治らないといわれたり、困っている腰痛患者が多いのではないでしょうか。本連載では、現役医師である伊東信久氏が、整形外科と整体、接骨院の違いについて解説します。

「自然に治る」と信じて、症状を悪化させる患者たち

椎間板ヘルニアには髄核が端っこに寄っているだけで椎間板からはでていない「膨隆型」と髄核が椎間板を突き破って外に出てしまっている「脱出型」があります。

 

脱出型のなかには、押し出された髄核が椎間板から切れて離れてしまうことがあります。この離れた髄核の破片の一部が体内で吸収される場合もあり、それが、MRI撮影をしたときに治ったように写り、実際に患者さんの症状も出なくなるのは起こり得ることです。ただし、髄核が切れた傷口は開いたままなのですから、いずれはまた出てきてしまいます。

 

ところが、一般に「自然に治る」といわれているのは、このようなケースではないようです。切れていなくても飛び出ている部分の髄核を、マクロファージが食べてくれるというのですが、それは免疫システムからすると考えられないことです。

 

自然に治ると主張している医者は、MRIを撮ると飛び出していた髄核が消えているといいますが、撮影の仕方によっては髄核が消えたように写ることがあり、単に写っているはずのヘルニアを見逃しているにすぎないのです。

 

それを都市伝説のように、免疫反応でヘルニアが消えたと信じている医者もまだまだたくさんいます。このようなことを信じて適切な治療を受けないままでいることが、患者さんの症状を悪化させている一因になっていると思われてなりません。

 

現在、筆者は理化学研究所発のベンチャー企業である株式会社理研免疫再生医学と提携して、NKT細胞標的治療という第3世代のがんの免疫治療も行っており、免疫が異物を認識するためのシステムの難しさを痛感しています。

 

NKT細胞標的治療では、α‐ガラクトースセラミドという物質を使って特殊な抗原提示という手法を使います。

 

NKT細胞は体外では増えないので、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞した山中伸弥教授のiPS細胞を使う以外、NKT細胞を培養して増やす方法がありません。そのためNKT細胞標的治療では、全血を遠心分離させてリンパ球の中から単球という別の免疫細胞を5〜6時間かけて取り出します。そして、CPC(細胞培養所)で2週間培養して、初めて樹状細胞と呼ばれるがんワクチンが作り出されます。

 

これを1〜2週間ごとに4回に分けて体内に投与することで、免疫細胞であるNKT細胞が活性化してがん細胞などを排除してくれるのです。

 

このように免疫機能というのは、そう簡単には働いてくれないのですが、安易に信じ込む医者がまだまだたくさんいるのが、患者さんにとって不幸の始まりなのです。

 

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椎間板ヘルニア治療のウソ・ホント

椎間板ヘルニア治療のウソ・ホント

伊東 信久

幻冬舎メディアコンサルティング

多くの現代人の悩みである腰痛・首痛。 その原因の一つである椎間板ヘルニアには、さまざまなウワサがあります。「手術しても完治しない」「安静にしていれば自然に治る」など…。 本書では、そんなウワサの真偽を椎間板…

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