節税効果がなくても、贈与をしますか?
さらに次に進みます。ここが一番見ていただきたいところです。
一方で、現在の税率構造では、富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界がある。
出所:令和3年度税制改正対応
ここでは「年間110万円までの贈与は非課税という制度を利用した節税は、取り締まるのに限界がある」と言っています。つまり「贈与で節税なんて、けしからん!」と政府は言っているわけです。
しかし贈与による節税効果は富裕層が積極的に贈与をする大きな動機であり、これをなくせば、贈与をする人が減るのは明らかです。「世代交代になるし、節税にもなるならいいよね」という贈与へのモチベーションがなくなってしまうわけです。
贈与を活性化させて経済も活性化させる、という観点でいうと、私は、110万円の上限を200万円程度に引き上げると良いのではないかと思っています。
それを裏付けるものとして、贈与税の特例制度で「教育資金の一括贈与は1500万円まで非課税」というのがあるのですが、節税効果もあり、これまで累計20万人以上が利用しています。
一方で「結婚子育て資金の一括贈与は1000万円まで非課税」というのもありますが、この特例はほとんど使われていません。というのも、節税効果がないからなんです。
このような例から、「節税ができる贈与を活性化させて経済を回す」というのは理にかなっているのではと考えます。
次にいきます。
諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、資産の移転のタイミング等にかかわらず、税負担が一定となり、同時に意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。
出所:令和3年度税制改正対応
外国の話が出てきました。アメリカの場合、「統一移転税額控除」というのがあり、贈与も相続も同じ枠のなかのこととして捉え、そこからはみ出た部分に課税がされます。タイミングに関わらず、税負担が一定というのがアメリカです。
日本の場合、相続が発生する3年以内にあった贈与も相続財産として計算されます。イギリスの場合は相続発生7年以内、ドイツの場合は相続発生10年以内、フランスは相続発生15年以内とされています。確かに諸外国と日本では事情が異なります。しかしアメリカの場合、基礎控除が10億円を超えているので、税金のかかる人が非常に少なく、それと同じように考えるのはそもそも無理があるように思えます。
最後です。
今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。
出所:令和3年度税制改正対応
いまは3年以内、とされている期限が、5年や7年、10年と延びるのではないかと噂されています
政府は「贈与でも、相続でも、最終的に払う税額が同じになるなら、世の中の人はもっと贈与するはずだ」、さらには「ついでに贈与の仕組みを利用した節税はできないようにしよう」と考えているのでしょう。
しかし相続の最前線に身を置いている立場から言うと「節税にならないなら、わざわざ贈与なんてしないわよ」という人のほうが多いのではと考えます。また「人生100年時代なんだから、財産は少しでも残しておきたいわ」という人のほうが圧倒的に多いと考えます。
節税効果がなくなれば、贈与する人は減ってしまうでしょう。ではどうすればいいのか。贈与を受けても、そのお金をただ持っているだけでは経済は循環していきません。たとえば「贈与されたお金が使われたら、非課税になる」そんな仕組みができたら、贈与も積極的に行われ、経済活性化にもなる……私、個人としてはそう考えています。