年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、言い方がキツイと評判の姉が巻き起こしたトラブル事例を、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

言い方がキツイとトラブルを起こす長女

A子さんが、100年以上続く問屋の長男に嫁いで20年。結婚にあたり、家業を手伝う必要があったこと、夫の両親と同居しなければいけないこと、がネックになったといいます。

 

A子さんはもともと、東京の商社で働く、いわゆるキャリアウーマンでした。そこで出会ったのが、その後の夫。交際をスタートする前に、彼が将来家業を継がなければいけないことは知っていました。交際をスタートした後も、そのことを意識しつつ、遠い将来のことだと考えていました。しかし、いざ、どうするか選択を迫られたとき、大いに迷ったといいます。

 

「今までのキャリアを捨て、長男の嫁として家業を手伝わなければいけないので、彼には『一生のことだから、じっくりと考えて答えを出して』といわれました。わたしとしては、義親との同居がネックでしたね。悩んでいたら、義父が豪快にいってくれたんです」

 

――そんなに、深く悩まんでもいい。無理だと思ったら、東京に帰ったらいい。結婚をしたら、一生添い遂げると考える時代でもなかろう

 

「その言葉を聞いて、肩の荷が下りました。この義父なら、ひとつ屋根の下でも大丈夫かなと」

 

結婚をし、彼の実家に引越したA子さん。東京生まれ、東京育ちで、地方暮しは初めて。さらに夫の実家で義親と同居し、家業の問屋は家族経営。四六時中、家族や親戚と一緒にいなければいけない生活は、想像以上に大変だったといいます。

 

「朝から晩まで同じ顔をみなければいけないんですから、最初は戸惑いますよ、誰でも。でも義父も、義母も、ほんとうにいい人で。そこが一番の救いでしたよね」

 

問屋は、義親、夫である長男、A子さんのほか、義姉、2人の義弟のほか、数人の従業員で営んでいましたが、唯一の問題が義姉の存在でした。

 

「少し言い方がきついんですよね、わたしにだけじゃなく、誰にでもなんですが」

 

――なんでそんな簡単なこと、わからないの?

 

――そんなの常識でしょ

 

――早くして、何時間かかってるの?

 

「間違えたことはいってないのですが、言い方ですよね。義姉がイヤだと辞めた従業員が何人いたことか……」

 

ちょっと、わかっているの!?
ちょっと、わかっているの!?

父に検査結果をどう伝えるか悩んでいたら…

ストレートな物言いの義姉が、ひと騒動を巻き起こします。きっかけは、義父が健康診断で問題が発見され、精密検査を受けたことでした。

 

義父以外の家族が呼ばれて、精密検査の結果を聞くことになりました。

 

義姉「なんで、当の本人がいないのよ」

 

義母「お父さん、見栄っ張りなのに小心者だから。まずはわたしたちが聞いて、きちんと対応を考えないと」

 

義姉「ふーん」

 

医師から告げられたのは、進行がん。すでに全身に転移し手術は難しいとのことと、抗がん剤と放射線治療で進行を遅らせる以外は手はないということでした。

 

義母「お父さんに、どう伝えるかね……」

 

夫「はっきりいうしかないかな。抗がん剤の副作用もあるし……」

 

義母「そうよね。でもお父さん、見栄っ張りだけど小心者だから……」

 

義姉「ほかにも大事なことがあるでしょ。会社、どうするのよ。お父さん、社長でしょ」

 

夫「そりゃ、そうだけど」

 

義姉「あんた、後継ぎなんだから、もっとしっかりしなさいよ! こんなんじゃ、先が思いやられるわよ!」

 

義姉がうだうだいっている家族を叱責し始めたとき、A子さんは嫌な予感がしたといいます。義姉はこういうとき、決まって暴走するのです。A子さんの予感は的中しました。ほかの家族をおいて、義姉は検査で入院している義父の部屋にむかいました。そして勢いよく、病室のドアをあけたのです。そこには、あまりの勢いにビクッとした義父の姿がありました。

 

義父「おっおぅービックリするだろ。家じゃないんだから、もう少し静かにドアを開けろよ」

 

義姉「お父さん!」

 

義父「どうしたんだ、そんなに怖い顔して」

 

義姉「今すぐ、遺言書を書いて。残された家族が揉めないように。さあ、早く!」

 

A子「ちょ、ちょ、お義姉さん!」

 

義姉「お父さん、社長でしょ。社長は社長らしく、さあ、早く!」

 

義父「遺言書……そうか、わたしはそんなに長くないんだな……」

 

ほかの家族も病室にやってきて、ひと騒動。すべてを悟った義父は意気消沈し、豪快で優しい姿は失われてしまいました。もちろん、遺言書を作成する気力など残っているわけもなく、ただ時間だけが過ぎていったといいます。

相続対策の肝は順番…まずは現状把握から

事例では、いきなり遺産分割の方法を迫っていますが、相続対策は、順番が大切です。行うべき相続税対策の順番は「1.現状分析」「2.遺産分割対策」「3.評価引下対策」「4.生前贈与対策」です。ここで特に重要になるのは、1番の現状分析と2番の遺産分割対策です。この2つがしっかりできていないのに、3番と4番をやりたがる人が非常に多いのですが、1番と2番の方が、圧倒的に重要度、優先度が高いです。

 

「現状分析」は、もし、万が一のことが今!起きてしまった場合に、

 

・どのくらいの相続税が発生するのか

・納税できるだけの資金があるのか

・家族が円満に相続することができるのか

・税務調査で問題になりそうなことがないか

 

このような問題点の精査を行っていきます。面倒がらずに、一度、プロに現状分析を依頼してもらうことをおすすめします。

 

次にするのが、「遺産分割対策」。「もし仮に、相続が起きてしまった場合に、どのように遺産を分けていくのか」をあらかじめ決めておく対策です。相続税は、遺産の分け方によって何倍にも変わります。そしてもう一つ大切な観点が、みんな円満に仲良く相続してくれるか」という観点です。

 

まずは、相続が起きた時に、相続人全員が不満を持たずに遺産分けができるか。それができて初めて、家族全体で最も相続税の負担が少なくなる遺産の分け方を考えていくことになります。

 

遺産分割対策が無事に形になったら、次に、評価引下対策を考えていきます。評価引下対策とは、不動産や生命保険を活用した相続税対策です。「預金で相続させるよりも、不動産や生命保険で相続させた方が、相続税は安く済む」という理屈です。

 

それらが終わってから「生前贈与」を検討します。生前贈与は、相続対策の仕上げと考えてください。

 

現在、遺言書を残す人は10人に1人といわれています。遺言書は必ずなくてはいけないものではありません。しかし「遺言書があって本当によかったですね」ということや、「遺言書さえ残しておいてくれれば……」というシチュエーションはたくさんあるのも事実です。

 

事例では、姉が遺言書の作成を迫ったばかりに、遺言書作成のハードルがぐっとあがってしまいました。なんとか残される家族のためにも、遺言書を作成してもらいたいものです。

 

【動画/筆者が「相続後の手続き」について分かりやすく解説】

 

橘慶太
円満相続税理士法人

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