「わたしに何かあっても困らぬように……」と家族を想う気持ちから貯めたお金が、相続で思わぬ悲劇を生むことがあります。焦点になるのは「預金の名義」。あなた名義の預金、本当に自分のものと言えますか?

夫を亡くした奥様にかかってきた「税務署」からの電話

とあるところに1組の夫婦がいました。

 

ご主人「妻が困らないように、妻の通帳で積立をしておこう」

 

ご主人の優しい気遣い……積立は奥様に内緒に行っていたそうです。時が経ち、ご主人は亡くなりました。悲しみに暮れるなか、奥様はご主人の財産について、きちんと相続税の申告を済ませました。

 

それからさらに2年後の夏、一本の電話がかかってきました。誰からの電話かというと、それは税務署から。「亡くなったご主人の相続税の税務調査を行います」というのです。

 

調査当日、調査官は2人でやってきて、ご主人について色々と聞いてきました。そのなかで、専業主婦だった奥さんの貯金通帳について質問がされます。

 

税務調査官「奥さんの貯金通帳にはたくさんのお金が入っていますが、そのお金、どのように築き上げたんですか?」

 

奥さん「主人が知らないうちに積み立ててくれていました」

 

このように答えると、税務調査官はこう言い放ちました。

 

税務調査官「奥様の預金は、実質ご主人の財産なので、相続税を追徴課税します!」

 

なんてこと…(※写真はイメージです/PIXTA)
なんてこと…(※写真はイメージです/PIXTA)

 

同じようなパターンで相続税の追徴課税をされてしまうことは非常に多いです。奥様の貯金通帳だけど実質、亡くなった人の財産……このような財産は「名義預金(名義人≠真実の所有者)」として扱われます。

 

なぜこのようなことが起きるのかというと、財産は名前を変えただけでは、その人のものにはならないからです。

 

どういうことかというと、たとえばある小学生が隣の席に座っている友達の筆箱が格好良くて「いいなあ」と思っていたとします。そこで友達の名前を消して、その上から自分の名前を書いたとしましょう。さて筆箱はその小学生のものになったでしょうか……ならないですよね。筆箱に書かれている名前は確かにその小学生かもしれませんが、本当の所有者は友達のままです。

 

これが財産でも同じような扱いがされます。そのため、実質的な所有者が変わっていないのであれば、実質的な所有者のものとして申告しなければならないのです。

 

ではどうすれば「名義預金」と判定されるのでしょうか。ポイントは2つあります。

 

まずひとつが「両者の認識の合致」です。奥様にお金を渡す=生前贈与がちゃんとされている、ということです。具体的にどういうことかというと、民法に「贈与の定義」が記されているので見ていきましょう。

 

民法549条(贈与の定義)

贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意志を表示し、相手方が受託をすることによって、その効力を生ずる

 

難しい言葉で書かれていますが、ようは「『あげた、もらった』の約束がきちんとできていること」ということです。贈与は「あげました」という意思表示、「もらいました」という意思表示、2つあって初めて成立する契約なのです。そのため税務署は、その意思表示をチェックしてくるわけです。

 

それを踏まえて先ほどの事例を考えると、「もらった」の意思表示はされていませんので、贈与契約として成立してないということになります。

 

もうひとつのポイントが「管理処分権限の移行」。これはもらった人が自由に使える状態にあったかどうか、ということです。

 

税務署の意見としては「贈与でもらった、というなら、自分で自由に使えて当然ですよね? 自分で使えない状況だったのなら、それは贈与とはいえません」というでしょう。

 

税務調査では、もらった人がそのお金を自由に使うことができたかが問われます。「お金は金庫にあって、自由に使えない状況だった」というような場合は、名義預金と判定されてしまうかもしれません。

 

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