夫婦共働きが珍しくなくなった昨今。とはいえ、いまだに女性のほうが家事や育児の負担が大きかったり、結婚や出産を機に退職せざるを得なかったりするのが現状です。人材不足に悩むのはどの業界も同じでしょう。筆者が務めるのは平成13年開業の歯科医院です。歯科衛生士は万年人材不足と言われますが、筆者のスタッフは皆長く働いていて、なかには15年選手もいるとか。筆者が実践する、人材が長く働けるマネジメントの一部を紹介します。※本連載は、大澤優子氏の著書『歯科衛生士のトリセツ』(かざひの文庫)から一部を抜粋・再編集したものです。

「長く働ける人材」より「長く働ける職場づくり」

男女平等社会とはいえ、どうしてもいまだに女性のほうが家事・育児の負担割合が大きいというのが実際のところ。

 

女性は、年を重ねるにつれて、男性が想像している以上に「家庭のためにやらねばならないこと」が増えてくるのです。加えて、女性特有の体の不調も出てきます。

 

だからこそ、スタッフに長く勤めてもらいたいと思うのであれば、女性のライフステージを理解し、勤務形態が変更になる可能性もあるということを頭に入れておくことは必須です。

 

女性のライフステージを構成する大きな要素は次の通りです。

 

【①結婚】

結婚相手の居住地によっては引っ越し、いずれ転勤ということもあり得ます。また、結婚相手によっては自分が働いて養わなければならない場合も考えられます。この場合、より給料のよい仕事を求めて退職することもあるでしょう。

 

【②妊娠&出産】

どちらも不確定要素ばかりです。望んだタイミングで妊娠できるとは限らず、場合いによっては不妊治療のための通院が必要になる場合も考えられます。妊娠すれば、つわりなどの体調不良で欠勤する可能性も高くなります。

 

【③育児】

仕事と育児の両立は想像を超えるハードワーク。保育園に預ける前提で仕事のシフトを組んでも、子供の体調不良ですべて白紙になることも日常茶飯事です。

 

【④親の介護】

介護は、育児と違い「手がかからなくなってくる」ということが考えにくい、終わりの見えない戦いです。

 

【⑤自分の健康】

女性特有の病気(乳がん、子宮筋腫など)で手術が必要になることもあります。ある程度の年齢になると、更年期による体調不良も出てきます。

 

体調を言い訳にするのはあまり良いことではありませんが、辛いものは辛いのです(経験者は語る)。

 

このように、(結婚による引っ越しなどで退職する場合は仕方がありませんが)女性のさまざまなライフステージの変化と、山あり谷ありの人生にともに寄り添うくらいの覚悟を持たなければ、スタッフに長く勤務してもらうことは難しくなります。

 

特に、出産で仕事を辞めるケースが非常に多いことを考えると、妊娠中・育児中の働き方に関してはよく相談し、できる限り寄り添う必要があります。

 

当院のように育児中のスタッフが複数いると、入学式、卒業式、運動会など、子供の学校行事の日程がかぶることもしょっちゅうです。そのため、育児中のスタッフには事前に子供の行事予定表を提出してもらい、行事が多い月は早めにシフトを組んでいます。

独身スタッフにも「育児以外の休み」を推奨

また、忘れてはいけないのが、「シングルライフを満喫したい」という女性も存在するということ。彼女たちは、子持ちのスタッフが急な子供の体調不良などで休むことが増えるのに比べて勤務形態が安定しているため、ともすると負荷がかかりがちです。

 

そこで、不満が溜まらないよう、当院ではなるべくスタッフ全員が平等な環境で働けるように「コンサートに行く」などの育児以外の理由、趣味を楽しむための休みがとりやすいように努めています。

 

大切なのは、「仕事以外」の時間も充実できるような働き方を、スタッフとともに考えていくこと。プライベートな時間があるからこそ仕事を頑張れるのです。それを犠牲にさせていると、そのストレスのツケは必ず職場に回ってきます。自分に余裕がなければ他人には優しくできず、また良い仕事もできないのです。

長く働ける「モデルケース」の作成

前項で解説したように、女性はさまざまな理由でそれまでと同じように働けなくなることがあります。そして、その時こそが、歯科医院の度量が試される時。そこでスタッフが辞めてしまうか、勤務を継続するかはこちらの対応次第なのです。

 

スタッフに長く働いてもらう地盤作りに必要なのは、まず「モデルケース」を一人作ること。例えば、それまでは「出産したら退職」が基本スタンスだった場合、まずは産後に職場復帰する「最初の一人」を作る。そこがスタートです。

 

出勤日数、勤務時間が減っても対応できるような勤務形態を整備する。時短勤務にする、正社員からパートに切り替えるなど、柔軟に対応する。

 

例えばスタッフの産前の戦力が1で、産後は半分の0.5になるとするならば、シフト調整で帳尻を合わせればいいのです。子育て中のスタッフが二人になれば、合わせて一人分。

 

また、「人手が欲しい」と言っても、常に忙しいというわけではなく、「この時間帯・この時期には絶対に人手がいる」というポイントがあると思います。そのポイントに来てもらえるように調整するだけでも、格段に仕事は回りやすくなります。

 

相手に合わせて柔軟に対応することで、時短勤務でもパートでも、十分に戦力になってもらえるのです。

 

最初は大変かもしれませんが、一度システムを構築すれば後続が出ても対応できます。なにより、また募集をかけて一から人材を育てることを思えば、こちらのほうが断然ストレスが少ないはず。

 

今後入ってくる新しいスタッフも、モデルケースが存在することで、「この職場なら環境が変化しても働き続けられる」という安心感を持って働くことができます。

 

 

大澤 優子

株式会社ケロル代表取締役、歯科医師

 

 

歯科衛生士のトリセツ 女性歯科医師だからわかる歯科マネジメント

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かざひの文庫

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