「最近の若者は…」という不満はどの時代でも耳にします。若い部下に対して「アレもコレもできていない」と悩んだり、つい「そんなことも知らないのか…」と言いたくなったりする場面も度々あるのではないでしょうか。「世代が違う部下」に悩むのは、どの業界も同じ。ここでは現役歯科医の筆者が実践するマネジメントテクニックを紹介します。※本連載は、大澤優子氏の著書『歯科衛生士のトリセツ』(かざひの文庫)から一部を抜粋・再編集したものです。

世代が違えば「常識」や「価値観」も違って当然

「そんなことも知らないの?」「これくらい常識でしょう!」

 

こんなセリフから、新人歯科衛生士との戦いは幕を開けることになります――。

 

かく言う私もその一人でした。いくら我慢しようと思ってもあまりにも目に余る彼女たちの言動に、あっという間に怒りのボルテージはマックス。そのうち怒る気力すらなくなり、ため息をつく。それでも次の日にはまた怒ってしまう…それが当たり前になっていた頃がありました。

 

それでも、こうしたセリフを繰り返したところで何かが改善されるわけではありません。彼女たちは何が相手を怒らせているのかわからないうえ、怒られることにさえも慣れていません。怒られたところでただ萎縮したり不機嫌になったり泣いたり、その挙げ句、辞めてしまいます。

 

あらためて考えてみましょう。今の新卒〜アラサー辺りの年代は、いわゆる「ゆとり世代」。1987年4月2日から2004年4月1日までに生まれ、「ゆとり教育」を受けてきた人たちです。

 

特徴は、何事にも熱くならない、未来に期待しない、欲がない、プライベート重視。私も含め、バブル時代を経験した歯科医師とは価値観が全く違う生き物なのです。同じ日本語を話していても、彼女たちとは文化も価値観もまるで違うのです。

 

彼女たちは「地球人によく似た別の星の生き物」。そう考えると、言葉が通じなくても、信じられないようなことを一から教えなくてはならなくても、そこまで腹が立たなくなります。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

 

「別の星から来た未確認生物だからしょうがない」。

 

こう唱え、心を落ち着ける。これこそが、歯科衛生士を味方につけ、歯科医院を上手く回す最初の第一歩と心得ましょう。

仕事ができない原因は「知らないから」ではないか?

「うちのスタッフはアレもできないコレもできない…」。

 

歯科医師が集まれば、そんな愚痴大会になることはよくあります。ですが、ちょっと待ってください。それは、本当に彼女たちが「できない」ことですか? 「知らない」からできていないだけではないでしょうか?

 

例えば、掃除。「雑巾も掃除機もまともに使えない!」なんて怒っていても、今どきの若い人は濡れ雑巾なんて使わないのです。彼女たちにとっての掃除道具といったら、汚れたら取り替えて使い捨てられるフローリングワイパーやハンディワイパー。

 

掃除機にしても、コード式のコロコロ引っ張るタイプのものを使ったことがない可能性も十分に考えられます。下手すると、家庭にはロボット型の掃除機しかなかった!なんていう場合も。最近は、固定電話がない家庭も多く、電話対応も不慣れです。

 

そう、彼女たちは「仕事ができない」のではなく、単純に「知らないこと」「経験していないこと」が多いのです。実家暮らしだと、「家では掃除をしたことがありません。お母さんが全部やってくれています」なんて人も珍しくありません。

 

歯科衛生士になるまでに育った家庭環境も、生活ルールも、全員違います。親から教わってきたことも、個人差があります。

 

だからこそ、すべての作業を全員で一度確認することを徹底しましょう。そして、誰が何を知らないのかを洗い出し、知らないことは、わかるように教えてあげればいいのです。「できていない」と注意するのは、彼女たちが「知ってから」なのです。

 

10~15分間の「ここだけの話」で信頼関係を構築

昔と違い、長時間一緒に働いて飲み会にも付き合わせ、じっくり関係を築いていくといった時代ではありません。

 

スタッフとの信頼関係は、なるべく短時間で築けるように工夫するべきです。信頼関係は、互いに腹を割って話すことから生まれますが、上下関係がある以上、いつもどおりの環境で「何でも話して」と言ってもそう簡単にできるものではありません。

 

そこで、かつて当院では「雑談ミーティング」というものをやりました。空いている時間に、院長とマンツーマンで10~15分話すだけです。

 

ルールはたったひとつ。「内容は他のスタッフには一切口外しない」ということ。このルールがあるだけで、話すことのハードルがグッと下がるようです。

 

院長によると、最初は何も喋らないけれど、そのうち、「ここだけの話」といって話し出すそうです。人間関係や給料の話など、話題は多岐に渡ります。愚痴みたいな内容でも気軽に話してもらいました。

 

ポイントは、「この人にだったら本当のことを言っていいんだ」と思ってもらえること。たとえ悩みがその場で解決できないことだとしても、信頼関係ができれば成功。こちらとしても実情が把握できました。

 

現在は信頼関係ができたので、こちらからわざわざ促さなくても、何か話したいことや聞きたいがあれば、向こうから伝えに来てくれます。

 

また、向こうから来ないということは現状これといって問題がなく、円滑に回っているということだと認識しています。

自由重視の時代だからこそ「おしゃれの基準」を明示

身だしなみを整える――それは、言うまでもなく社会人としての基本マナーです。特に、歯科医院では「清潔感」が大切になってきます。

 

今どき茶髪を禁止するなどというのは時代遅れです。しかし、「茶髪」と一口に言ってもその色合いや明るさはとても幅広いもの。

 

「金髪だ!」「いえ、茶髪です!」などと風紀委員のように不毛な戦いをしなくても済むように、ヘアカラーの色見本を参考に、どの色までならOKかをきっちり決めている医院もあるようです。

 

ネイルやエクステなども、どういう基準にするのか前もって決めて提示することで、お互いに余計なストレスを抱えずに済みます。当院では、「髪が肩についたら結ぶ」「ネイルはしない」というのが基本ルールとなっています。

 

「おくれ毛」が流行した時は困りものでしたが、耳の前に残したおくれ毛がマスクについて不衛生だったので、それ以降「おくれ毛NG」としました(スタッフの平均年齢が上がるにつれ、おしゃれよりも実用性重視となっているように思います)。

 

また、忘れがちですが、柔軟剤も注意が必要です。現在、当院ではスタッフの白衣は病院側で洗濯していますが、以前、各個人で洗濯をしてもらっていた時に「柔軟剤の匂いがきつ過ぎる」ということがありました。

 

今はさまざまな香りの柔軟剤が発売されており、気分によって使い分けて、香水のように楽しむ人も多いようです。

 

しかし、その一方で「香害」という言葉も広まったように、香りは意外と好みが分かれますし、苦手な人にとっては気分が悪くなるもの。香りも身だしなみの一部としてとらえる時代と考えましょう。

 

 

大澤 優子

株式会社ケロル代表取締役、歯科医師

 

 

 

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