平成生まれにとって「電話の取り次ぎ」は未知の体験
物心ついた時には一人に一台、携帯電話やスマホを持って育ったスタッフたち。自宅に固定電話がないことも珍しくありません。
ある新人スタッフは、電話の取り次ぎでこんなことがありました。
「先生に電話です」。
副院長である私も「先生」、院長も「先生」です。知り合いからの電話ならば「優子先生をお願いします」か「院長先生をお願いします」のどちらかでかかってくるはずです。
「どっちの先生?」と聞くと「わかりません」の答え。「誰からの電話?」と聞いても「名前は言いませんでした」。
…頭を抱えてしまいました。電話も「個」と「個」で繋がっているものしか使ったことがないため、彼女たちには「電話を取り次ぐ」という経験がないのです。
それ以来、院内の電話機の横には「誰からかかってきたのか、誰にかかってきたのかを聞く」というメモを貼るようにしました。これで「どっちの先生ですか?」問題は解決しました。
ここまでしてようやく「まともな電話応対」実現
が、すぐに新たな問題が発生。今度は「用件」です。診療中は手が離せないことが多いので、自分あてに電話がかかってきても出ることができません。「今、手が離せないから電話に出られないと伝えておいて」と言って、そのまま診療を続けました。
さて、昼休みになり「さっきの電話の用件は?」と聞くと「わかりません」。彼女いわく、「『先生は電話に出られません』と伝えました」。全く悪気のない表情です。たしかにそうは言いましたが…。
相手側から伝言があるのか? あるいはもう一度相手からかかってくるのか?? それともこちらから電話をかけなおすのか、その場合はどの番号にかけなおすのか??? 何一つ聞いていませんでした。
その後、当院ではすべての電話機の横に、次のような空欄を埋めるメモを置くようにしました。
●「日付」
●「時間」
●「誰から」
●「誰に」
●「伝言の有無」
●「先方がかけなおす/こちらからかける」
●こちらからかける場合は「先方の電話番号」と「担当者の名前」
●「電話を受けた者の名前」
●「この電話メモを当事者に伝えたか」
このメモで、必要最低限の情報はわかるようになりました。
また、取次対応だけでなく、電話対応の基本ともいえる、次のようなマニュアルも作りました。
①電話が鳴ったら3コール目までに出る
②「こんにちは、大澤歯科医院のXXです」と名乗る
③ワントーン高い声で明るく対応する
④重要事項は復唱して確認
⑤電話を切る際には「XXが承りました。それでは失礼致します」
⑥相手が切ったのを確認してから切る
ここまでしてようやく、まともな電話応対ができるようになってきました。それでも、まだ電話トラブルは終わらなかったのです…。
「一見バカバカしい内容」でも平成生まれには超実践的
固定電話にも慣れ、スマートな対応ができるようになってきたスタッフですが、今度は「誰からの電話でも取り次いでしまう」というトラブルが発生しました。
診察で忙しいさなかに、歯科医師あての怪しいセールスの電話までご丁寧に取り次いでしまうのです。
そこで、「歯科医師あての電話マニュアル」も作成しました。
①聞いたことがない相手、あやしい相手からの場合、「どのようなご用件でしょうか」と聞く
②用件を話さない、あるいは明らかにセールスの場合は「少々お待ちください」と3秒ほど保留にする
③「ただいま院長は手が離せませんので後ほどこちらからかけなおします。ご連絡先をお伺いしたいのですが」と尋ねる
一見バカバカしいような内容ですが、これを作ったことでスタッフは電話対応に迷うことがなくなりました。
バカバカしいといえば、電話を受けた際の第一声の挨拶でも頭を抱えたことがあります。最初に「おはようございます」と教えたところ、昼の12時でも「おはようございます」。昼は「こんにちは」でしょう、と言うと今度は日が暮れて外が暗くなっても「こんにちは」と言い続ける平成生まれ…。
しょうがないので、11時までは「おはようございます」、11時から17時は「こんにちは」、17時以降は「こんばんは」と決め、それも電話マニュアルの片隅にメモしてあります。
当時は「いちいちそんなこと言われなくてもわかるだろう!」とイライラしていましたが、今は「別の星の生き物」と思うように努力した結果、たいていのことでは驚かなくなりました。
大澤 優子
株式会社ケロル代表取締役、歯科医師