きょうだいで事前に話し合っていれば…
そうした経緯があったので、回復して実家に戻った姑がHさんを呼んで、こっそりへそくりの100万円を渡してくれたのだそうです。Hさん夫婦の溜飲は少し下がりましたが、きょうだいの仲はこじれたままです。
Hさんの家のような事態を防ぐにはやはり、父親の介護が始まった時点できょうだいで話し合うべきでした。できれば介護が始まる前に、誰かひとりが父親の面倒を見ることになったら、「手間ひまがかかり、そのために収入も減るので、遺産分割の際にはその分を考慮しよう」と話し合うことが必要だったのです。
おかしなもので、目の前にお金がなければ案外、「そりゃそうだよ。おれたちは面倒を見ることができないから、やってもらえて感謝するよ」という話になり、すんなり受け入れてくれることも多いのです。しかし、そうした話し合いが一切なされていないと、H家のようなことになってしまう。そういう例をこれまでにいくつも見てきました。
実は遺産分割というのは、必ずしも「法定相続分」どおりに分けなくてもいいのです。これは多くの人が誤解していることなのですが、遺産相続は「法定相続分が基準」ではないのです。
民法の第906条に、遺産の分割は遺産の種類(土地なのか預貯金なのか)や各自の年齢や置かれている生活状況や体の状況などを勘案して、自由に分けていいですよ、と書いてあります。血の通った条文で私は好きなのですが、ご存じない方が多いようです。
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第906条【遺産の分割の基準】遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
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民法に定める法定相続分は、相続人の間で遺産分割の合意ができなかった時の遺産の取り分であり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありません。家族の納得した分け方が一番なのです。
相続を家族で争い合う「争族」にしないためにも、親の介護やその後のことについて、できれば親が元気なうちに子ども同士で話し合っておいてください。その際には、エンディングノート※のことも忘れずに。転ばぬ先の杖、とても重要です。
※人生の終末期に迎える「死」に備えて、自身の希望を書き留めておくノートのこと。
安田 まゆみ
元気が出るお金の相談所 所長
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