普通の家庭で育った子どもは私立医学部に不向き
このように、「国公立医学部か、私立医学部か?」にはさまざまな視点があり、一概にどちらがいいと言えるものではありません。各家庭、各受験生がどの視点を優先するかで、選択する道は異なってきます。ただ、長年にわたり多くの受験生を医学部へ送り出してきた私の経験から言えば、いわゆる普通の家庭に育った子どもは私立医学部には不向きなように思います。
私立医学部には、普通の家庭の子どももいるにはいますが、少数派です。大多数を占めるのが、開業医をはじめ経済的にかなり裕福な家庭の子どもで、着るものにしても食べるものにしても人生観にしても、普通の家庭の子どもとはまったく違います。一般家庭の子どもがその世界に交じり、別世界の話を始終聞かされることはつらいものですし、卑屈にもなりかねません。そのような環境下で6年間学業を続けていくことは困難がともないます。
10年ほど前、私の教え子にもそういったケースがありました。両親が無理して1000万円ほどのお金を捻出し、新設の私立医学部に入学させましたが、周囲が自分と違う世界の人だったことから、話が合わず居づらくなリ、1年生の秋に辞めてしまいました。
普通の家庭に育った子どもは、一般家庭の子弟も多く、学費が低めに抑えられている旧設の私立医学部か浪人を覚悟して国公立医学部を目指すほうが賢明だと私は思います。国公立医学部であれば、勤務医の子どもはいても、開業医の子どもは多くない可能性がありますから。「国公立医学部か、私立医学部か?」は、当人のこれまでの人生とフィットするかどうかを、第一に考えて選ぶべきかもしれません。
小林 公夫
作家 医事法学者