「いい偶然」を引き寄せる「偶発性理論」
■キャリア形成のきっかけとなるもの
結果的に成功した人は一体どのようにキャリア戦略を考え、どのようにそれを実行しているのか? この論点について初めて本格的な研究を行ったスタンフォード大学の教育学・心理学の教授であるジョン・クランボルツは、アメリカのビジネスマン数百人を対象に調査を行い、結果的に成功した人たちのキャリア形成のきっかけは、80%が「偶然」であるということを明らかにしました。
彼らの80%がキャリアプランをもっていなかった、というわけではありません。ただ、当初のキャリアプラン通りにはいかないさまざまな偶然が重なり、結果的には世間から「成功者」とみなされる位置にたどり着いたということです。
クランボルツは、この調査結果をもとに、キャリアは偶発的に生成される以上、中長期的なゴールを設定して頑張るのはむしろ危険であり、努力はむしろ「いい偶然」を招き寄せるための計画と習慣にこそ向けられるべきだと主張し、それらの論考を「計画された偶発性理解=プランド・ハップスタンス・セオリー」という理論にまとめました。
クランボルツによれば、我々のキャリアは用意周到に計画できるものではなく、予期できない偶発的な出来事によって決定されます。それでは、キャリア形成につながるような「良い偶然」を引き起こすためには、どのような要件が求められるのでしょうか? まずハップスタンス・セオリーの提唱者であるクランボルツ自身が指摘したポイントを挙げてみましょう。
●好奇心=自分の専門分野だけでなく、いろいろな分野に視野を広げ、関心をもつことでキャリアの機会が増える
●粘り強さ=最初はうまくいかなくても粘り強く続けることで、偶然の出来事、出会いが起こり、新たな展開の可能性が増える
●柔軟性=状況は常に変化する。一度決めたことでも状況に応じて柔軟に対応することでチャンスをつかむことができる
●楽観性=意に沿わない異動や逆境なども、自分が成長する機会になるかもしれないとポジティブに捉えることでキャリアを広げられる
●リスクテーク=未知なことへのチャレンジには、失敗やうまくいかないことが起きるのは当たり前。積極的にリスクをとることでチャンスを得られる
このクランボルツの指摘を先ほどのリンドバーグの指摘に重ね合わせてみれば、私たちが真に自分の人生を見つけるためには、一見すれば「時間の無駄、時間の浪費」に見えるような営みにも、積極的に参加することが大事なのだということがよくわかります。
このクランボルツによる研究結果を、日本の現在の就業状況と照らし合わせてみると、大きな課題が浮かび上がってきます。図表を見てください。これは主要先進国の勤続年数別の労働人口構成比を整理したものです。
一見してわかるように、日本では「1年未満」の構成比が、平均と比較して極端に少ないことがわかります。
わかりやすく言えば「一度勤めた会社で長く働く傾向がある」ということです。「一意専心」「石の上にも三年」といった古い価値観にしばられた人にとって、この状況は好ましいように思われるかもしれませんが、こと「いろいろと試して自分の人生を見つける」ということを考えてみた場合、これは大きな阻害要因となります。
特にこれから「人生100年の時代」がやってくると、多くの人々は人生の中で何度かのキャリアチェンジをせざるを得ないのですから、自分がどのような活動に夢中になれるのか、逆にどのような活動にはシラけるかを、いろいろなことを試してみた上できちんと把握しているかどうかで、その人の人生の豊かさは大きく変わってしまうことになります。
山口周
ライプニッツ 代表
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