何に夢中になれるかは試さないと分からない
■「浪費」や「無駄」が、人生には必要
大西洋単独無着陸飛行にはじめて成功したチャールズ・リンドバーグの妻であり、また自身も女性飛行家として活動して素晴らしい紀行随筆を残したアン・モロー・リンドバーグは次のような言葉を残しています。
<人生を見つけるためには、人生を浪費しなければならない。>
彼女の随筆にはそこここに柔らかな光を放つ宝石のような一文が埋め込まれていますが、これは中でも珠玉といえる至言でしょう。私たちは「浪費」や「無駄」という言葉に、非常にネガティブなイメージをもっています。でもその「浪費」こそが、自分らしい人生を見つけるために必要だとリンドバーグは言っているわけです。なぜなら「人生」は理性的に、先見的、効率的に見つけることができないからです。
私たちは、自分が何に夢中になれるのかということを、事前に先見的に知ることができません。なぜなら「夢中」というのは「こころの状態」なので理知的に予測することができないからです。
チクセントミハイが指摘しているように、多くの人は「夢中になれること」を見つけられないままに人生を終えていくわけですが、これがなぜそれほど難しいかというと、「夢中になれること」はいくら頭で考えてもわからない、いろいろなことを行ってみた後で事後的に身体感覚として把握することでしかつかむことができないからです。私たちが「知性」という言葉を聞いて普通にイメージするのとは大きく異なる「身体的な知性」が求められるのです。
自分が何に夢中になれるのかは、結局のところは試してみないとわからない。それがたとえ「何の役に立つのかわからない」ような営みであっても、多くの時間と労力の浪費と無駄の先にしか「人生」を見つけることはできないというリンドバーグの指摘は、多くのキャリア論に関する研究からも裏づけられています。