こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

台湾では政府と国民が共通の目標を持つパートナー

インターネットは少数者の声をすくい上げる重要なツール

 

この「vTaiwan」や「Join」は、政策についてのパブリック・オピニオンを募るために使われています。今述べたように、国民はこのプラットフォームを利用して、自らが考えた実施可能な政策アイデアを出すことができます。このことにより、政府と国民の間の境界線はなくなり、両者はオープンな協力関係を築くことが可能になります。つまり、政府と国民が共通の目標を持つパートナーになるのです。

 

このプラットフォームを介して実際に国民の声が政策として実現された例を一つ挙げてみましょう。台湾では2019年7月にプラスチック製ストローを全面的に禁止しました。この政策のきっかけとなったのは、「I love elephant and elephant loves me(私はゾウが好き、そしてゾウは私が好き)」というハンドルネームの人物が、プラスチック製の皿とストローの段階的な使用禁止を求めた「vTaiwan」への書き込みでした。

 

この提案に対して、請願に必要な5000名の署名がすぐに集まりました。その結果、企業が紙やサトウキビなどの再生可能な資源からストローを製造することを承諾し、環保署(日本でいえば環境省)が政策として法制化することになったのです。今ではプラスチック製のストローは、紙やサトウキビを使ったストローが使用されるようになりつつあります。

 

後になって、このハンドルネームの人物が16歳の女子高校生であることが判明し、世間を驚かせました。台湾のタピオカミルクティーは世界的に有名ですが、彼女はそのために大量のプラスチックストローが使われ、環境に悪影響を与えることを憂慮していました。だから、プラットフォームに提案を書き込んだのです。まだ参政権を持っていない16歳の一人の女子高生の提案が、社会を変えたのです。

 

小さな声であっても、それに同意する人が集まることで、政治家が法律で規準を作ってトップダウンで規制しなくても、社会の変革は可能だということです。むしろトップダウン式に政策を決定しようとすると、社会に対立をもたらすリスクが生まれます。

 

私の興味は、人と人との交流を円滑にすることにあります。パソコンやインターネットの登場で、人間と人間とのコミュニケーションの仕方は大きく変わりました。私が幼い頃は、ラジオやテレビが主なメディアでしたが、そのとき感じていたのは、それらのメディアを通じて自分の意見を伝えることのできる人間はほんの僅かしかいないのではないか、という懸念でした。

 

大部分の人はただ聞いているだけか、見ているだけです。しかし、パソコンやインターネットが登場したことで、今では誰もが自分の言いたいことを発信できるようになりました。これは素晴らしい民主的な革命だと思います。

 

それとともに、私が自主勉強をしていたときに自然と感じるようになったのは、「何事も独学が可能なのだ」ということです。ネット上には様々な意見があり、それを統合することが自分の学習領域となりました。また、私は「より多くの時間をこうした勉強に費やしたい」と感じ、こうした勉強方法を「情報科学だけに限らず行いたい」と考えました。

 

私は、より多くの問題について、お互いに顔も知らない人間、会ったこともない人間同士が一緒になって解決していくという「文化」に啓発されたのです。それが「vTaiwan」や「Join」にも反映されています。そこで、たくさんの人たちが自らの意見を出し合って議論することは、台湾の民主化をさらに前進させることにつながると確信しています。

 

 

 

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録