こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

少数意見を取り上げる「コラボ会議」とは

私は、より多くの問題について、お互いに顔も知らない人間、会ったこともない人間同士が一緒になって解決していくという「文化」に啓発されたのです。それがオンラインで法案を討論できるプラットフォーム「vTaiwan」や参加型プラットフォーム「Join」にも反映されています。そこで、たくさんの人たちが自らの意見を出し合って議論することは、台湾の民主化をさらに前進させることにつながると確信しています

 

見えにくい問題を顕在化し、解決に導くために創設したPDISとPO

 

このような小さな声をすくい上げて社会を前進させていくために創設したのが、「パブリック・デジタル・イノベーション・スペース(Public Digital Innovation Space、略称PDIS)」と「パーティシペーション・オフィサー(Participation Officer、略称PO)という二つの職務です。これらがどういう活動をしているのか簡単に紹介しましょう。

 

まずPDISでは、私たちが直面している社会問題や環境問題の解決に向けて、みんなで力を合わせて取り組む「コラボ会議(協作会議)」と呼ばれる会議を開催しています。これはすでに70回以上行ってきました。

 

小さな声をすくい上げて社会を前進させていくために創設したのが「PDIS」と「PO」という2つの職務だという。
小さな声をすくい上げて社会を前進させていくために創設したのが「PDIS」と「PO」という2つの職務だという。

 

伝統的な民主主義において、有権者は問題の解決を代表者(立法委員)に頼っています。この有権者に代わって意見を述べる人たちは政治のプロでなければならず、自分の考え方もしっかり持っていなければなりません。

しかし、実際に社会問題や環境問題の被害を受けている人たちの中には、こうした委員とのコミュニケーションのとり方がわからない人も多く、そのため委員が有権者の意見を十分に反映していない危険性もあります。また、委員の意見と有権者の意見とが衝突するような場合に、委員は必ずしも有権者の意見を取り入れて議論するとは限らないことが考えられます。これらは単一民主主義における基本的な問題点と言えるでしょう。

 

このような問題点を解決するために、PDISは少数意見を把握し、委員も気がつかない問題を取り上げたり、直接委員とやり取りできない人たちでも、インターネットを利用してつながりを持つことができるプラットフォームの役割を担っています。

 

具体的な例を挙げてみましょう。今年の6月に「ある問題」をコラボ会議で取り上げることが決まりました。この案件は4月に提起され、5月末には賛同者(ネット上の署名者)が5000人を突破しました。

 

先にも述べましたが、私たちのプラットフォームでは、「2カ月以内に5000人が賛同した場合には、必ず政府が政策に反映する」というルールがあります。もし5000人に満たない場合は、対応してもしなくても構わないのですが、5000人を超えると、政府には誓願内容を政策に反映しなければならないという義務が発生するのです。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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