デジタルは多くの人々が社会や政治を考えるツール
デジタル技術を活用して、複数の部会にまたがる問題を解決する
私の政治家としての現在の肩書は、行政院におけるデジタル担当政務委員です。
正確にいえば、政務委員の一人であると言ったほうがいいでしょう。行政院には32の部会があり、それぞれトップがいます。しかし、一つの部会では解決できない問題もたくさんあります。そういうときには部会間の異なる価値を調整する人間が必要になります。それを行うのが、政務委員です。
つまり、複数の部会を横断的に見て、その間に橋をかけ、「共通の価値観を見つけ出す」というのが、政務委員の仕事なのです。
そんな政務委員の一人として、私はデジタルを用いて問題のシェアあるいは橋渡しをする仕事を担当しています。ですから、「デジタル省」や「デジタル庁」といった組織が存在して、私がそのトップに就いたわけではありません。
私は2014年12月、当時の馬英九政権の政務委員だった蔡玉玲氏と一緒にオンラインで法案を討論することができる「vTaiwan」というプラットフォームを構築しました。その後、行政院のコンサルタントに就任して、デジタル担当政務委員に就任した2016年には「Join」という参加型プラットフォームを開設しました。この「Join」は、現在ユーザー数が1000万人を超えています。
人々は生活の中にある問題を解決するための新しいアイデアをこのプラットフォームに提案することができ、その意見を聞いた人は、即座に自分の意見を伝えることができます。「Join」上でこれまでに議論された政府プロジェクトは2000件以上あり、主な分野は医療サービス、公衆衛生設備、公営住宅建設に関するものでした。
このようにして、様々な意見を持ち寄り、議論を重ねることによって、困難な問題でも解決の糸口が見つかる可能性があります。これがデジタルとアナログの最大の違いでしょう。とくに政治においては、デジタル技術がなければ、人々に告知することはできたとしても、問題解決に直接的に参加するのは容易ではありません。
デジタル民主主義の根幹は、「政府と国民が双方的に議論できるようにしよう」ということです。私は「国民の意見が伝わりにくい」とされる間接民主主義の弱点を、インターネットなどの力により、誰もが政治参加をしやすい環境に変えていこうとしているのです。
こうしたデジタル技術は、社会のイノベーションに寄与しますし、政治であればオープン・ガバメント(開かれた政府)を実現する基礎となるでしょう。社会や政治が抱える様々な問題の解決法に対して、まだ投票権さえ持っていない若い人たちでも、「もっと良い方法があるに違いない」と思っています。そうした意見を共有し、議論することは、若者の政治参加にもつながるでしょう。デジタルは、多くの人々が一緒に社会や政治のことを考えるツールになるのです。
デジタル担当政務委員としての私の役割の一つは、このように人々がお互いに語り合える場をオンライン上で提供することです。ただし、私は政府のためだけに働いているわけではなく、特定団体の利益のために働いているわけでもありません。人々が語り合うために私が設計したプラットフォームは、世界中の多くの政府で使われています。その意味では、私の仕事は世界を結ぶための橋梁のようなものでしょう。