こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

李登輝の「台湾は国際社会に貢献する」意味

台湾の国際貢献と「新台湾人」の基礎を作った李登輝氏

 

私の父が抱いていた李登輝氏への見方も、1996年の総統直接選挙の前後で変わっていきました。1996年以前の印象は、先ほどお話したとおりですが、父が総統選挙で陳履安氏を支援したのは、互助精神とか協力といった、民間が持つ安定した力を政治の力にしようと思っていたからです。ただ、総統直接選挙後、とくに1999年の921大震災以降、李登輝氏は非常に長い時間をかけて、先に述べた「社会が持っている力」を、台湾社会だけでなく、国際的にも知名度を誇る「台湾の民間の力」にまで仕立て上げました。

 

今、台湾政府はコロナ禍に苦しむ世界に向けて〝Taiwan Can Help〞というメッセージを送っています。「台湾はWHOに加盟していませんが、他の国を助けることができますよ」と表明しています。

 

李登輝氏は、アメリカ留学時代の母校であるコーネル大学で行った講演で、「台湾の建設や発展は決して経済的なものだけを目的としているのではなく、国際社会に貢献したいがために発展を続けているのだ」という内容の話をしました。〝Taiwan Can Help〞というメッセージにも、「台湾がコロナに関して解決できた問題を国際社会にシェアしたい」という思いが込められています。

 

〝Taiwan Can Help〞の根底にあるのは、「自分たちの問題が解決したら次は他の人を助けてあげよう」という「お互いさま」の精神です。李総統の「台湾は国際社会に貢献する」という発言も同様です。そのことについては、私の父も非常に賛同していました。

 

李登輝氏は晩年、公職を離れ、政治や党とはまったく関係のない立場になりました。それでも精神的な指導者、あるいは哲学的な指導者としての役割を担っていました。したがって、各政党もまた、李登輝氏とは本来関係のない党であっても、その考え方を政党運営の一つの指標とすることもありました。

 

こうした状況は、より長期的な影響を与えるもののように思います。たとえば、総統を経験した人は、自分が任期中にどんなことをしたか、どんな貢献をしたか、自分の仕事が社会や環境にどれほど大きな影響を与えたかということを話します。そうした角度から李登輝氏の功績を考えると、それは「新台湾人」という概念を打ち出したことでしょう。これは、これから何世代にもわたって受け継がれるものです。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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