こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

台湾史上初めての女性総統に選出された

史上初の女性総統となった蔡英文と台湾政治の先進性

 

野百合学生運動から始まり、ひまわり学生運動によって進展した台湾の民主化の波は、止むことがありませんでした。それらの運動が生み出した一つの成果が、2016年1月16日に行われた総統選挙でした。この選挙で、民主進歩党(民進党)の蔡英文氏が圧倒的な得票を得て、台湾史上初めての女性総統に選出されたのです。

 

同年5月20日、蔡氏は総統に就任し、政権が発足しました。蔡英文総統の誕生は、東アジア全体、さらにはアジア全体でも大きな出来事でした。伝統的に東アジアの女性が政府のトップになるためには、父親や夫が首相や大統領であるなど、政治的な家系の出身者であることが条件になってきました。これは現在でも同じような状況でしょう。

 

しかし、蔡英文氏の家柄はそうではありません。彼女は自身の能力で民進党主席を務め、最終的には総統に選ばれたのです。その点で画期的な出来事であると同時に、台湾社会の先進性を世界にアピールすることにもつながったと思います。

 

蔡英文総統の誕生は、東アジア全体、さらにはアジア全体でも大きな出来事だったという。
蔡英文総統の誕生は、東アジア全体、さらにはアジア全体でも大きな出来事だったという。

現在の台湾の政治が先進的だといえる理由が二つあります。一つは、1996年に初めて総統直接選挙が行われたことです。当時すでにインターネットが存在していたので、人々が想像する民主主義は非常に多元的なものになっていました。

 

つまり、「民主主義には定型化された運用方法は存在せず、一つのテクノロジーにすぎない」と皆が考えるようになったのです。

 

単なるテクノロジーであれば、使い勝手が悪ければ常によりよいものを求めてアップグレードすればいいわけです。実際、台湾の憲法(中華民国憲法)は、状況の変化に応じて、これまで何度も改正されています。これも「テクノロジーはアップグレードされなければならない」という考え方が根づいていることを証明していると思います。

 

そもそも台湾の憲法は、国民党独裁時代に、台湾とは比較にならないほど広大な中国大陸を統治することを意識して定められたものでした。それゆえに、台湾の状況の変化に応じて何度も改正されざるを得なかったのも事実です。

 

しかし一方で、台湾の人々は「憲法は絶対にこうでなければならない」という感覚に縛られていません。これは大変重要なことだと思います。

台湾政治の先進性を示す第二の理由は、台湾の憲法に「政治への直接参加の精神」が謳われていることです。この「直接公民権」という概念は、もともと孫文(中華民国創始者)の教えの中に含まれていて、現実的には憲法が常に改正されることが想定されています。片や代議制についてはほとんど触れられていません。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

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