デートに行ってから関係が途切れた場合、費用を出した側は相手に返還を求める可能性があります。「奢られた」と認識していた方は、困惑することでしょう。返却の必要性は法的にあるのでしょうか。女性からの質問にお答えする形で、女性弁護士がお金のトラブルについて解説します。※本連載は、三輪記子氏の著書『これだけは知っておきたい男女トラブル解消法』(海竜社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「経費で落ちる」と言われたが…デート代は返すべき?

【相談内容】

20代半ばの会社員です。婚活サイトを通じて知り合った40代前半の男性から「お金を返せ」という連絡がメッセージアプリに届きました。その男性とは3回デートしましたが、お付き合いはしていません。

 

彼は複数の飲食店を経営する実業家で年収5000万円(自称)。話題も豊富で身のこなしもスマートでしたし、初対面のときは好印象でした。

 

けれど、2回、3回と会うたびに彼の癖が気になってしまい、4回目のお誘いの際に、「会うのをちょっと考えさせてください。冷却期間がほしいです」とお願いしました。その後もお誘いの連絡が数回来たのですが、私は「今は忙しいので…」と言って誘いを断り続けました。

 

すると「あなたの曖昧な態度は失礼なのでは? もう結構です。諦めます。けれど、これまでのデート代の半分は払ってください」と、二人で訪れた店などのレシートの画像が添付されたメッセージが送られてきました。カフェ代、レストラン代、映画代、駐車場代、高速代、ガソリン代…合計で9万6200円で、その半分の4万8100円を払ってほしいとのことです。

 

ちなみに彼の癖で気になったのは、物の値段に対して「ちっ、高けぇ」「ぼってる」といちいちコメントするところや、サービス業に従事する方々に対して「注文を取りに来るのが遅い」「“いらっしゃいませ”の挨拶がなかった」など言い、態度が横柄なところでした。常に商売人の目線で同業者への評価が厳しく、私は心が落ち着く暇がありませんでした。

 

彼にデート代を請求できる権利はあるのでしょうか? そもそも私が支払いをしようとすると「いいよ。経費で落ちるから」と言ってました。

デート代が「あげたお金」なら返却不要

数回デートをしただけで、そしてその後デートをしなくなっただけでこれまでのデート代を請求されたのですね。突然の請求に驚かれたでしょうし、「お金払わなきゃいけないの?」と困惑されていることと思います。今回のご相談については、まず結論から申し上げますと、「払わなくていい」です。そもそもメッセージアプリに返信する法的義務もありません。

 

(画像はイメージです/PIXTA)
(画像はイメージです/PIXTA)

 

何度もメッセージが来るようでしたら、ストーカー行為規制法の規制対象になる可能性もありますし、彼があなたを脅してでもお金を払わせようとしているのであれば恐喝に該当する可能性もあります。

 

万が一の場合に備えてメッセージアプリのやりとりをプリントアウトするなどして警察署に相談に行きましょう。

 

返信するのもやめておいたほうがいいでしょう。彼の不当な請求に対応すればするほど彼からの連絡がエスカレートするかもしれないからです。

 

さて、それではなぜそのお金を払わなくてもいいのか、について説明します。

 

まず、彼があなたにお金を貸したのであれば、あなたは彼にお金を返す義務がありそうです(金銭消費貸借)。

 

一方、彼があなたにお金をあげた(贈与)のであれば、あなたは彼にお金をもらったわけですから、あなたは彼にお金を返す義務はありません。

 

※当事者の一方(借主)が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方(貸主)から金銭その他の物を受け取ることを内容とする契約(民法第587条)。

 

彼の主張「お金を返せ!」が不当であるこれだけの理由

そこで、こういった場合に金銭を「貸した」のか「あげた」のかが問題となるわけです。ここで、彼はあなたにお金を「貸した」と主張しており、あなたは彼にごちそうしてもらっただけ(もらった)と考えているわけですから、主張に食い違いがありますね。

 

彼の主張は認められるものでしょうか。言い換えると、二人の間で金銭消費貸借契約が成立したといえるのでしょうか。

 

どんな契約が成立したのかを判断する場合に、後日の事情(しかも当事者の気分)により契約内容が変わるのは妥当ではありませんし、契約当事者の予測可能性を害してしまいますね。

 

そこで、契約時、つまりデート時の二人の合理的意思を基準として二人の間でどんな契約が成立したのかを判断することになります。

 

そして、二人の合理的意思を判断する場合には、契約当時の事情を細かく見ていくことになります。

 

本件のようにカフェ代、レストラン代、映画代、駐車場代、高速代、ガソリン代…などは男女がデートに出かけた際に、その場で「後で返すね」などの話をしていないのであれば、通常は「奢り」、つまり「贈与」と考えるのが通常でしょう。

 

実際、あなたが支払いをしようとしたところ「いいよ。経費で落ちるから」と彼が言ったのですから、デートの時点では彼があなたにごちそうした、奢ったと考えられます。

 

彼があなたに金銭を請求してきたのがあなたが彼の誘いを断ってからということからも、あなたの態度が気に入らないことから、あなたがデートの誘いを断った時点で主張を覆くつがえし、これまでのデート代を請求していると考えられます。

 

このように後日主張を変えたところで、それが認められるわけではありません。

 

したがって、本件に関しては彼とあなたとの間に金銭消費貸借契約の成立は認められず、あなたの贈与の主張が認められ、彼にお金を返す義務はないということになるでしょう。

交際相手でも、お金の貸し借りには「契約書」が必須

交際している二人の間でもお金でもめることはあります。

 

お金の貸し借りは明確にしておくべきですし、実際は「もらった」ものであっても、お金を返しますという書面にサインしたりすると、後日お金を返す義務を否定できない場合もでてきます。

 

付き合っている関係であっても、お金でもめないように、お金を貸す場合には必ず契約書を作成しておくこと、借りたわけでもない契約書にサインしないこと。これは覚えておいてほしいです。

 

<まとめ>

●彼からの連絡がエスカレートすれば、ストーカー行為規制法の規制対象や恐喝に該当する可能性がある。万が一に備えてメッセージアプリのやりとりの証拠を残しておくべき。

 

●男性がデートで払ったお金は、女性が「後で返すね」などの約束をしていない限りは、男性の「奢り」=「贈与」と考えるのが通常。

 

●デートのお金=「贈与」を後日「返せ」と言うことはできない。

 

 

三輪 記子

弁護士(第一東京弁護士会)

 

 

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