結婚を見据えていた彼に新しい女性が…訴えられる?
32歳・会社員です。数か月前、「ほかに好きな人ができたから別れたい」と彼に言われました。婚約破棄を理由に彼を訴えることを検討中です。
彼は3つ年上で、彼との交際期間は8年、同棲してから1年が経っていたタイミングのことでした。
現在、彼は21歳の若い女と一緒に暮らしています。
彼からの正式なプロポーズの言葉や婚約指輪などはもらっていません。けれど、同棲を始めたのも二人の将来を見据えてのことでしたし、彼の行動が身勝手でやりきれません。彼を許せない気持ちで頭がパンクしそうです。
私のケースは婚約破棄として認められるでしょうか?
婚約が成立していたと判断できれば「婚約破棄」
32歳でいらっしゃることからすると、結婚をとても現実的なものとして考えていらしたと思いますし、ご自身の気持ちの中では「彼が一方的に婚約破棄をした」と感じていらっしゃることと思います。
実は私も30歳半ばで同じような経験をしましたので、お気持ちはよく想像できます。ただし、ご経験されたことが法的な意味で「婚約破棄」といえるのかについては検討が必要です。
法的な意味での「婚約破棄」とは、法的に成立したと認められる婚姻予約を正当な理由なく破棄したことですので、まずは「婚約」が成立したかどうかを判断する必要があります。それでは、どのような場合に婚約が成立したと認められるのでしょうか。これについては民法上に明確な規定はありません。
正式なプロポーズ・婚約指輪等がなければ認められない
かなり古い判例ですが、最高裁は昭和37年12月25日第三小法廷で「婚姻の予約は、将来において適法な婚姻をなすべきことを目的とする契約であって、適法にして有効なものであること及び法律上これにより当事者をして婚姻を成立させることを強制しないが、当事者の一方が、正当の理由なく、約に違反して婚姻をすることを拒絶した場合には、相手方に対し婚姻予約不履行による損害賠償の責に任ず(以下略)」と判示しています。
その後の判例、裁判例を見てみますと婚約が成立したと認定できるかどうかについて裁判所が重視している事情は、当事者の結婚についての同意、結婚の申込みやこれを受け入れる旨のやりとりがあったか否か、結納をしたかどうか、結婚式をあげたか否か、結婚を前提とした継続的な肉体関係があったか否か、婚約指輪等の授受があったか否か、双方の親や親族・周囲の友人に互いを婚約者として紹介したか否か等々です。
これらの事実の有無を総合的に判断し、婚約の成否が判断されます。
この点、「婚約は将来において婚姻することの同意であり、何らかの慣行的な儀式や方式を伴うことを要求されるものではなく」(平成22年3月26日東京地裁)と判示している裁判例もあり、この事実さえあれば絶対に婚約の成立が認められる、というものはありません。
さて、本件についてこれを検討してみますと、交際期間は長いものの彼からの正式なプロポーズの言葉や婚約指輪をもらったこともないとのこと。これらの事実は婚約成立について残念ながらマイナスの事情といえるでしょう。単に同棲しているだけでは裁判所も安易に婚約成立を認めるとはいえないと考えます。
民間の機関に「紛争解決」を導いてもらうことも可能
というのも、裁判所が婚約の成立を認めるということは、当事者の自由な意思に委ゆだねられるべきである結婚の前段階である婚約について、当事者どちらか一方の主張に従ってその成立を認め、不当にこれを破棄した者に対して慰謝料の支払いを強制することにつながるからです。
ご相談の件は、他の事情をお聞きしないとなんともいえないですし、他の事情を加味して訴えれば婚約破棄が認められるかもしれません。
ここで、あなたには3つの選択肢があると思います。まず1つ目は彼と話し合って一定のけじめをつけること。2つ目は調停・ADR※1・訴訟などの手続きを利用して彼の責任を問うこと。3つ目は彼のことを過ぎ去った人ととらえて新たな人生を開くこと、かと思います。
※1 裁判所ではなく民間の機関が紛争解決機関として当事者間の紛争解決を第三者的立場から導く手続きのこと。
いずれか1つを選択しなければならないわけではなく、彼の責任を問いながらも新たな人生を切り開くことも可能です。どんな場合に婚約が成立すると認められるのか今一度検討した上で、今後の進み方を考えましょう。
決して彼を無理に追いかけたり、彼の現在の同棲相手に嫌がらせをしたりしないでくださいね。
●「婚約が成立した」ことについて民法上に明確な規定はない。
●婚約の成立の成否は「当事者の結婚についての同意」「結婚の申込みやこれを受け入れる旨のやりとりがあったか否か」「結納をしたかどうか、結婚式をあげたか否か」「結婚を前提とした継続的な肉体関係があったか否か」「婚約指輪等の授受があったか否か」「双方の親や親族・周囲の友人に互いを婚約者として紹介したか否か」等々の有無から総合的に判断される。
三輪 記子
弁護士(第一東京弁護士会)