逮捕されたという10代の頃の経歴を理由に、婚約破棄を申し渡された29歳女性。婚約破棄は、正当な理由さえあれば違法とはみなされませんが、「逮捕」という理由は不当と認められるのでしょうか? 「嫌われるのでは…」と話さなかったことは責められるべきなのことでしょうか? 弁護士が解説します。※本連載は、三輪記子氏の著書『これだけは知っておきたい男女トラブル解消法』(海竜社)より一部を抜粋・再編集したものです。

10代の頃「逮捕された過去」が理由の婚約破棄は不当?

【相談内容】

半年前、彼から結婚を申し込まれました。彼は27歳の銀行員、私は29歳、中古車ディーラーで営業の仕事をしています。もともと彼は、私の店に車を見に来たお客さんでした。

 

私も彼も古いアメ車が好きで、趣味も同じくサーフィン、最初から昔の友だちのように話がはずみました。彼は私の店で車を購入し、その後、サーフィンに誘われ、一緒に海に行くうちに交際にまで発展しました。

 

彼の家は代々、医薬品製造業を営んでいて、彼は長男ということもあり、ゆくゆくは銀行を辞めて家業を継ぐようです。お互いの両親には挨拶済みで結婚式の日取りも決まっています。

 

ですが、先週、「婚約の話はなかったことにしてくれ」と彼に告げられました。理由を聞くと、「キミの過去の経歴を両親が問題視している」とのことです。

 

実は若い頃、警察のお世話になったことがあります。10代の頃の私は素行が悪く、不良グループに入っていて、別の不良グループと起こした抗争事件で、現場にいた私は逮捕されました。

 

私はリーダー格ではなかったため、幸い少年院に行くことは免(まぬが)れました。けれど、相手グループには障がいが残るほどの大けがを負った女の子がいて、事件後にそれを知った時に本当に申し訳ない気持ちで一杯になり、実際、彼女に会いに行き、彼女の前で謝りました。

 

彼女は「許す」と言ってくれました。彼女の両親からは罵倒に近い言葉も投げかけられましたが…。

 

その後、不良仲間とは縁を切り、自動車整備士の専門学校に通って資格を取り、ガソリンスタンド、タクシー会社などの整備士を経て、現在の中古車ディーラー営業職に就きました。

 

そこで出会ったのが今の彼ですが、彼には「昔はやんちゃだったのよ」という話はしていても具体的なエピソードまでは話していません。現行犯逮捕されたことは10年以上前、未成年だった頃の話ですし、「話したら嫌われるのでは…」と正直心配だったこともあります。

 

話さなかった私が悪いのでしょうか? どうすれば婚約破棄を撤回してもらえるのでしょうか?

婚約破棄をしても正当な理由があれば違法にはならない

結婚式の日取りまで決まっているとのことですから、あなたの件では婚約の成立※1は認められそうです。このケースでは婚約の不当破棄といえるかどうかが問題になりそうです。

 

※1 婚約の成立の成否は「当事者の結婚についての同意」「結婚の申込みやこれを受け入れる旨のやりとりがあったか否か」「結納をしたかどうか、結婚式をあげたか否か」「結婚を前提とした継続的な肉体関係があったか否か」「婚約指輪等の授受があったか否か」「双方の親や親族・周囲の友人に互いを婚約者として紹介したか否か」等々の有無から総合的に判断される。

 

婚約の不当破棄は債務不履行であるとして、一定の場合には婚約破棄された方が婚約破棄した方に対して求めた損害賠償請求が認められてきました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

さて、これまで裁判例では婚約の成立を認める場合には、そのような約束を保護すべき要請が高いという価値判断がありましたから、婚約破棄の正当理由についても安易には認めないという態度をとってきたようです。

 

しかし、そのように解釈すると本来的には当事者間の自由な意思に基づくべき婚姻制度について、法が過度に干渉することになりかねず、学説では婚約破棄の正当理由を広く解釈すべき、つまり、正当理由を広く認め、婚約破棄の多くを違法と扱うべきではないという指摘があります。

 

確かに、裁判所の考え方にも学説の考え方にも双方に一理あるように思われます。私は婚約自体が民法に明確な定めがなく、そもそも当事者の自由な意思が尊重されるべきであって法律が外部的にコントロールすべきではない場面といえますから、法の適用には慎重であるべきだと考えます。

 

そうはいっても、どんなときにも婚約破棄が正当といえるというわけではありません。この点、過去の裁判例では、婚約破棄が民族的差別感情に基づくものや、部落差別に基づくと認められる事例等で、正当な理由なしとして損害賠償を認めたものがあります(昭和58年3月8日大阪地裁判決、昭和58年3月28日大阪地裁判決など)。

 

憲法14条※2が列挙しているような事由に基づく差別を放任するわけにはいきませんから、この裁判例の結論には賛同できます。

 

※2 憲法14条…すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。

 

また、別の裁判例(平成5年3月31日東京地裁判決)では、婚約解消が不当であるとして破棄された方に精神的損害の賠償義務が発生する場合を「婚約解消の動機や方法等が公序良俗に反し、著しく不当性を帯びている場合に限られるものというべきである」と示しました。

 

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これだけは知っておきたい男女トラブル解消法

これだけは知っておきたい男女トラブル解消法

三輪 記子

海竜社

情報番組のコメンテーターとして活躍中の女性弁護士が書き下ろす女性のための法律バイブル! 離婚問題、各種ハラスメント問題に対して真摯に取り組んでいる彼女だからこそ放たれる金言的なアドバイスの数々。 婚約破棄、…

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