親とお金の話をする方法「いろんな提案と一緒にする」
③親の気持ちを汲んで提案する
90歳の母親に施設に入ってもらうために「実家を売りたい」というRさん(56歳・会社員)の相談です。
「父が亡くなった後、実家でひとり暮らしをしている母のことが心配で。物騒な世の中だし、体力も衰えてきたので介護施設に入ってもらいたい。実家を売って、そのお金を入所の費用にあてたいのですが、母は悲しそうに『お父さんが建ててくれた家だし、ここで50年も暮らしてきたんだから、離れたくない』と言って、嫌がるんです」
実家の売却費用を原資にして施設に入る、という判断は賢明です。でも、Rさんの「心配しているのに」の裏には、「こんなに心配して、あれこれ考えているのに、ちっとも俺の言うことを聞いてくれない。俺の選択肢は間違っていないはずだ。それしかないじゃないか」という子どもの側からの一方的な都合のいい気持ちが透けて見えています。
それが、お母さんに気持ちが届かない理由です。「こんなに心配しているのに」という主語は「俺(Rさん)」ですよね。でも、主役はお母さんです。まずは、お母さんの気持ちを聞きましょう。
親としては、高齢になればなるほど、ひとり暮らしへの不安は増えていきます。思い出のある家を離れるのは寂しいという気持ちと、老人ホームに入ったほうが安心できるだろうなぁと思う気持ちが行きつ戻りつし、決断がつかない状況なのです。
さらに、新しい環境になじめるのか、ホームに入ったら、子どもたちや孫に会えないのではないか、という不安もあるのです。まずは母親の不安や希望をとことん聞くところから始めてください。それから、「お母さんの気持ちに沿える方法としては、○という選択肢もあるよ」と提案してみましょう。
たとえば「ひとりぼっちは寂しい」という気持ちにフォーカスして考えてみると、長く住んでいるこの家のまわりには古くからの友達もいて、土地柄も好きで安心して暮らせているものの、友達も施設に入ったり、子どもと同居するために引っ越したりして少しずつ減ってきて、外でおしゃべりする相手も少なくなってきた。夫もいなくなってしまって、寂しいなぁ……そんなふうに思っているかもしれません。
そういう気持ちを聞いたのであれば、「それならウチ(子どもの家)の近くのホームなら、俺も休みの日に行けるし、子どもたちも受験が終わったことだし、今までより会いに行けると思うよ」という提案もできるでしょう。
そうすることによって、母親の頭にはその情景が浮かび、「じゃあ、ホームに入ることを考えてみようかな」という気持ちになるかもしれません。
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