革命と継承…日本で破壊的イノベーションが起きない根本原因

Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

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文明観的に日本で破壊的イノベーションが起きない

破壊的イノベーション

 

ここからは、ビジネスパーソンにとっても非常に関心が高いと思われるアートとお金、ビジネスの関係について解説します。

 

ビジネスの基本は、高い品質と適正なコストによるサービスと製品の製造になると思いますが、90年代以降、日本企業は、商品の低価格化、いわゆる低価格競争に終始して、付加価値の高いビジネスを育ててきませんでした。

 

実は、日本企業は、高付加価値ビジネスが苦手というのが本当のところなのではないかと私は疑っています。よく聞くビジネスの成長戦略といえば、生産ラインの見直し、業務のマニュアル化、労務費、人件費の見直しによるコストカットといったもので、クリエイティブでもイノベイティブでもないのです。時代を画するような骨太の新規ビジネスといった華やかな話は、あまり聞いたことがありません。

 

17世紀にオランダではチューリップ・バブルが起きたという。(※画像はイメージです/PIXTA)
17世紀にオランダではチューリップ・バブルが起きたという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

しかし、このままいけば日本はジリ貧です。産業界に新しいビジネスが立ち上がり、新しい風を吹かせていくようにしなければならないでしょう。

 

本来は、日本のような成熟社会においては、高付加価値のビジネスがいくつも誕生し、収益性の高い産業構造になっていなければなりません。そのように考えたときに、アートを商品として眺めてみるといろいろな気づきがあるのではないかと思っています。アートは、究極の高付加価値商品といえるのです。

 

ここからは、ビジネスとアートの距離を近づけて話をしていきたいと思います。

 

今、残念ながら、日本のビジネスは世界の主流から外れています。従来の付加価値付与型のビジネスモデルではうまくいかなくなった日本企業にとって、破壊的イノベーションが求められていますが、現状では打破するのは難しい状況です。

 

なぜ、西洋では破壊的イノベーションが起こるのに、日本では起こりにくいのでしょうか。

 

アートの世界でも同じような事例があります。西洋美術史と日本美術史の違いを例に説明しましょう。

 

西洋美術史の歴史は、いわば「革命の歴史」でした。ひとつの芸術運動が起こり成熟するとその流れを破壊する新たな芸術運動が起こるのです。これまでの芸術が、あらたなムーブメントである印象派絵画によって駆逐され、その印象派絵画も「色彩の革命」であるマティスらのフォービスムや、「形の革命」であるピカソらのキュビスムによって駆逐されるといったように、西洋美術は破壊的イノベーションにより常に進化してきました。

 

中でも究極の破壊的イノベーションが、今から100年ほど前の1917年に発表されたフランス人アーティスト、マルセル・デュシャンの《泉》です。

 

この作品は工業製品である便器にサインをしただけの、いわゆる「レディ・メイド(既製品)」ですが、デュシャンは、この《泉》により芸術という概念に革命を起こしました。これは既存の常識を打ち破る、破壊的なまでの革命的なイノベーションといえる作品で、デュシャン芸術の様相は大きく変わっていきました。デュシャンは今に続くコンセプチュアルな現代アートの創始者として位置付けられています。

 

このように革新的なイノベーションが、西洋美術の世界では絶えず起きていたのです。一方、日本美術の根底に流れているのは「継承の歴史」で、いかに伝統を引き継ぎ、次世代に伝えていくかが求められてきました。そのため日本美術には、平安時代の絵巻物から明治以降の日本画、「スーパーフラット」を唱える村上隆に至るまで「平面性」や「装飾性」「叙情性」といったDNAが、受け継がれています。

 

これも継承による付加価値付与型の日本式ビジネスとよく似ていると思いませんか。日本人は、アートの世界でも「革命」よりも「継承」を大切にしてきたのです。

 

アートには、それらが育まれてきた文明観が強く反映されますが、もしかすると、このような文明観に日本で破壊的イノベーションが起こりにくい要因があるのかもしれません。

東京藝術大学大学美術館 館長、教授 練馬区立美術館 館長

1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業後、作家兼アートライターとして活動。

1991年に福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社、国吉康雄美術館の主任研究員を兼務しながら、のちに「ベネッセアートサイト直島」として知られるアートプロジェクトの主担当となる。

開館時の2004年より地中美術館館長/公益財団法人直島福武美術館財団常務理事に就任、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。2006年に財団を退職。2007年、金沢21世紀美術館館長に就任。10年間務めたのち退職し、現職。

著者紹介

連載ビジネスエリートに欠かせない「現代アート」という教養

アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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