Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

過去最高8万8000人を集めたアート・バーゼル香港

天井知らずの市場

 

2019年3月、アジア最大級のアートフェアである、第7回アート・バーゼル香港が開催されました。大変な活況で、最終的には5日間の会期中に過去最高となる8万8000人の来場者数を記録しました。話題となったのは来場者数だけではありません。

 

同じくアート・バーゼルの中で、毎年アメリカのマイアミで開催されるアート・バーゼル・マイアミは、アメリカと南米からの顧客で賑わう世界でもトップクラスのアートフェアでしたが、その売り上げを、今年は香港が抜き去ったのです。いかに中国を中心にしたアジアのマーケットが成長しているかが理解できます。

 

アジア最大級の現代美術館「M+」は2021年末開館予定だという。(※写真はイメージです/PIXTA)
アジア最大級の現代美術館「M+」は2021年末開館予定だという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

作品が動くことがわかると、さらにいいギャラリーが集まってきます。

 

35の国と地域から242店舗のギャラリーが出店する国際色豊かなトップクラスのアートフェアとして、アート・バーゼル香港はここ数年で急成長しました。実は香港では同時期にもうひとつアートセントラルというアートフェアが開催されていますが、この二つのアートフェアが開催される3月の香港ではアートイベントが連日行われ、それを目当てに世界中からアートファンが集まります。

 

さらにM+というアジア最大級の現代美術館が2020年にオープン予定で、アートと文化、それに関連した観光が香港の主要な産業になるのもそう遠くないといわれています。このように香港におけるアート・マーケットはどんどん拡大しているのです。

 

中国は、今国家を挙げて文化政策に取り組んでいて、美術館の建設やアートフェアの開催など、美術振興に力を入れています。経済が発展し、お金が余るようになると、最初に値段が上がるのが土地ですが、中国は社会主義市場経済体制のため、土地は国家の所有物で(土地の使用に使用権がいる)、余ったお金は必然的にほかの投資に流れます。そのため、中国人富裕層が最も熱い視線を送っている投資対象が、アートなのです。

 

また、なぜ中国人の資産形成の中でアートが上位を占めるのかは、歴史によって形成された彼らのマインドとも関連しているようで、国家を心の底からは信頼していない中国の人々にとっては、何か国難があったとき、いち早く移動できる金や貴金属、絵画などの動産が、人気が高いとある専門家は言います。

 

世界に広がる華僑は、方々に家を持ち、絵画などの資産も分散して保有しています。金や貴金属を握るユダヤ系の人々も同じですが、華僑のネットワークも国家の輪郭を超えていて、この人たちが世界のアート・マーケットも牛耳っているのです。

 

資本主義社会では、資本は常に新しいパイオニアを求めて周縁に広がり、移動していきます。アートの中心地が欧州から米国へ、さらに中東、中国へと移っているという事実もアートと資本主義の親和性の高さを物語ります。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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