Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

現代アートの特徴は、「深く感じ、考える」を重視

常識を疑う、ゼロベースで考える

 

アート鑑賞を通じて、常識を疑い、普段の見方とは異なる見方ができたり、認識の幅を広げたりできることは説明しました。では、ここからは新たな見方を得られるようにするための美術鑑賞として、「現代アート」を取り上げます。

 

現代アートに対して、「わからない」「ヘンテコなもの」「不可解なもの」といった印象を持たれている方が多いかもしれません。しかし、現代アートほど、ビジネスパーソンが「思考の飛躍」を得る手がかりになるものはないかもしれません。

 

「常識を疑う」あるいは「ゼロベースで考える」は、現代アートを鑑賞する基本的な姿勢だという。(※写真はイメージです/PIXTA)
「常識を疑う」あるいは「ゼロベースで考える」は、現代アートを鑑賞する基本的な姿勢だという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

現代アートの特徴は、「深く感じ、考える」という傾向を重視することです。

 

歴史的、哲学的な見方を大切にして、大きな物語に自分を関係づけようとする一方で、一人の人間の目の前の現実を無視しない、例外にしない、そんな両者が成り立つ「解答」を見つけようとします。大義を探りながら、個別なものも活かすという発想でしょうか。個々の特別な状態も例外にしないといってもいいかもしれません。またそれは同時に、ミクロとマクロの両方の視点を持つ、あるいは歴史的な時間軸の中でどの地点に自分がいるのかを考えるといったことでもあります。

 

そのときには論理だけでなく、感性や感覚を使って、物事を見る、そしてその前提としてゼロベースで考えるということから始めるのです。

 

ビジネスであっても、思いがけないアイデアが湧く瞬間には似た感覚があるのではないでしょうか。

 

通常、何かを考えるときに使う方法は帰納的な思考です。つまり、一つひとつの体験を手がかりに、眼前にある問題を分析・解決するやり方です。しかし、この思考は、過去という限定された条件のもとで行われるため、問題の捉え方自体が狭小化してしまいます。ですから、過去の体験や常識をいったん保留にして、目の前の問題に向き合うことが大切です。そうすることによって、それまでに見えてこなかった解決の糸口が見えてきます。

 

パブロ・ピカソは「子どもは誰でも芸術家だ。問題は、大人になってからも芸術家でいられるかどうかだ」と言いました。その意味は、子どもは大人の常識を持ち合わせておらず、社会的経験も多くありませんが、その白紙に近い状態であることによって、かえって自由にゼロベースで考えることができるということです。しかしながら、大人になり常識を身につけるとそれに縛られて自由に考えられない。だから意識してゼロベースで考えることが必要になるのです。

 

アンディ・ウォーホルは、近代アートが信じるオリジナルという考え方に異議を唱えて「なんでオリジナルじゃないといけないの? 他の人と同じでなんでいけないんだい?」と言いました。つまりこれまでの常識を疑い、ゼロベースから考えたのです。それだからこそ、簡易なシルクスクリーンで大量生産するというこれまでのアートの逆を行く発想が生まれたのです。

 

「常識を疑う」あるいは「ゼロベースで考える」は、現代アートを鑑賞する基本的な姿勢で、ここから始めると言ってもいいものです。

 

アーティストには自分が「正しい」と思えば、常識に従ったり、空気を読んだりせずに突き進むところがあります。現代アートと向き合いつつ、ゼロベース思考を身につけて新しい発想を得てください。ビジネスパーソンにとって有意義な時間をつくれるはずです。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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