「クライアントはどんな人生を歩みたいか」を考える
自分が苦しい時にその苦しみに寄り添ってくれる人、自分が嬉しい時に一緒になって喜んでくれる人、そういう士業は、他に少々値段が安い別の士業が現れても契約を切りにくいものです。単発の取引での付き合いであっても、また何かあればそういう人に依頼しようと思いますし、だれかに紹介したいという気持ちも強くなります。
「相手の気持ちに寄り添う」ということを続けるのは、難しいものかもしれません。ただ、クライアントが「苦しい」「嬉しい」といった強い感情を感じている時は、特にその感情に寄り添うことを意識していただきたいと思います。苦しい相手にはできる範囲で相談に乗り、喜んでいる相手とは一緒になって喜びを分かち合ってください。
マインドは常にアナログ──コミュニケーションの重要性
私の事務所では、業務効率化のために、顧問先との打ち合わせはビデオ通話などのITツールを使うようにしていますが、直に会う機会が少なくなるからこそ、より一層、顧問先と心を通わせるコミュニケーションを心がけることが重要だと感じています。
相談があればその都度お受けし、その中でさまざまな質問をしていくことで、経営の深い悩みが姿を現します。そういったお悩みに対して提案できることは提案し、直に会う必要があると判断した場合にはフットワーク軽く面談に伺います。
「大きな契約が決まった」「銀行の融資が通った」、そういった嬉しい出来事があれば、クライアントは電話で興奮気味にその喜びを伝えてくれます。その様子に、私も嬉しくなって「良かったですね!」と率直にお伝えします。「この人なら一緒に喜んでくれる」と思っていただけているから電話が来るのです。一緒に喜んでくれない人には、嬉しいことがあっても電話はしないでしょう。ツールはハイテク、マインドはアナログ。このバランスが今後の士業に求められることだと思います。
絶対的な正解がない判断のサポート
単純な書類の作成業務の多くはいずれ自動化され、法律や通達などで明確な答えがあるものは、近い将来、スマートスピーカーやスマートフォンが答えるようになるでしょう。そうなると士業が付加価値を発揮する場は、法律や会計などの国の制度に関する専門知識や経験が求められる、明確な答えがないことに対する判断のサポートにシフトしていくと考えています。
「さらなる事業拡大をすべきか、やめておくべきか。拡大するのであれば追加の資金調達を行うべきか。資金調達を行うのであればどういう調達方法にすべきか」
「従業員たちともめてしまい、事業に疲れた。もう事業を売却すべきか、それとも従業員ともう一度向き合って話し合うべきか。売却するのであれば、どのような進め方が考えられるのか。従業員との話し合いが決裂したら、どういう手立てがあるのか」
「親の相続に関する遺産分割協議で兄と意見が合わない。ここで兄と争うか意見に従うか、争うのであればどのような交渉の進め方が有効なのか、最終的に意見が決裂した場合はどういう手段があるのか」
これらの判断には絶対的な正解がありません。自分一人で判断がつかない場合は専門家の意見を聴きたいと思うでしょう。そこに士業によるサポートのニーズがあります。そのサポートをするうえで重要なのは必要な知識を網羅的に伝え、目の前の問題の先にあるクライアントが「どういう人生を歩みたいか」という点をしっかり考慮することです。