今後人間が提供する情緒的価値が重視される理由
機能的価値だけでなく情緒的価値も提供しているか
これまで自動化されにくい業務について、縦方向に展開する方法(経営参謀としての関与)と横方向に展開する方法(士業の発想の枠にとらわれない事業の展開)についてお伝えしてきました。ここでは、そうして築いたお客様との関係を長期的に維持するために重要になる考え方についてお伝えします。
売り手と買い手の関係において、売り手が提供する価値には「機能的価値」と「情緒的価値」の2つがあります。
機能的価値とは、商品・サービスが提供する機能や利便性などをいいます。税理士であれば税務申告書の作成や税務コンサルティング、社会保険労務士であれば社会保険の加入手続きや給与計算、労務コンサルティング、経営参謀として関与する場合は、経営課題を解決するための知識やノウハウの提供といったものが該当します。
一方、情緒的価値とは、商品やサービスがもたらすポジティブな感情です。具体的には、親身に相談に乗ってくれて得られる安心感、しっかり話を聴いて自分の意図を汲み取り的確なアドバイスをくれる頼もしさ、話していると自分もやる気にさせられる熱意や元気、礼儀やマナーのよさなどから感じられる好印象といったものです。
士業が提供する機能的価値の中には、単純な書類作成や入力業務も多く含まれますが、そういった業務はAIや機械によって自動化されていきます。一方、情緒的価値は人間が関わることではじめて得られる要素が多く、AIや機械で代替することが難しい部分です。そのため、情緒的価値は今後人間が提供する付加価値としてより重視されていくでしょう。
情緒的価値の「価値」
士業は他のサービス業と比べて情緒的価値の提供がおろそかになりがちです。だからこそ情緒的価値の提供を強く意識することで大きな強みにつながります。そしてこの情緒的価値を発揮することは、なかなか口に出せない話を打ち明けられる、重要な意思決定にあたって意見を求められる、といった深い信頼関係を築くことにつながります。共感の重要性という形でお伝えした内容に近いものですが、重要なことであるため、改めて詳しくお伝えしたいと思います。
深い信頼関係を築くことなく機能的価値だけを提供する関わり方をしていると、クライアントがより安い料金で同業者から営業をかけられた場合、すぐに乗り換えられてしまうおそれがあります。技術の進歩に伴う業務の効率化、低コスト化によって低価格競争の激化が見込まれる中で、現状の料金を維持していくうえでも、クライアントと深い信頼関係を築くことは非常に重要です。
以前、私は複数の経営者仲間に「他に値段が安い会計事務所があったとしても、今の顧問税理士を変えないとすれば、その理由は何でしょうか?」と質問をしたことがあります。「対応が早い」「税務の知識が豊富」「経営の相談にも乗ってくれる」など、さまざまな答えが返ってきましたが、なかでも多かったのが「立ち上げ時や資金繰りに困った時など、苦しい時に親身になって相談に乗ってくれた」「自社の利益が大きく伸びた時に自分のことのように喜んでくれた」という答えでした。