こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

李登輝氏は国民が何を望んでいるかを考えていた

台湾の憲法はスイスを参考にしているため、決して純粋な共和代議制ではありません。そのため、いわゆるリコール権などが含まれている三民主義(民族主義・民権主義・民生主義)も、憲法が起草された当時、すでにかなり進んでいました。

 

この「政治への直接参加」と「常にアップグレードしていく」という二つのことが合わさって、台湾のフレキシブルで生き生きとした社会や政治体制が形成されているのだろうと私は考えています。

 

第二次世界大戦前、日本統治下の台湾では、自分たちの議会を組織し、教育制度を整え、参政権を求めて闘う台湾人がたくさんいました。「自分たちの意見や理念は自分たちで決めたい」と願ったことが、台湾には何度もあったと思います。

 

ただ、その途上には戦争があり、あるいは白色テロ(第二次世界大戦後の国民党政権による言論弾圧)によって、人々は弾圧を受けました。

 

そうした弾圧があったから政治参加に対する台湾人の意識が高まったのかどうかを考えるのは歴史学者の仕事であり、私にはそうとは断言できません。しかし、そういう歴史があったから現在の台湾の政治があることは、明白な事実でしょう。

 

自分が何をしたいかではなく、人々が何を望んでいるかを考える

 

台湾におけるフレキシブルさの象徴が、李登輝総統時代の民主化であったと私は考えています。李登輝氏はまさに大きな役割を果たしました。当時の戒厳令下あるいは戒厳令解除後も、政府が国民の代わりに物事を決めていくという方式は変わりませんでしたが、李登輝氏は台湾の人々が何を欲しているかを常に考えていたと思います。決して「自分は何をしたいか」ではありません。

 

その態度を見れば、民間で民主化を求める声を上げた人たちも、おそらく天安門事件のときのように「武力によって鎮圧される」という不安は抱かなかったでしょう。李登輝氏が総統に就任した1990年に起こった野百合学生運動では、多くの大学生が中正紀念堂(台北市中心部にある蔣介石前総統を顕彰する施設)に座り込みました。

 

学生たちは国民大会(当時、立法院とは別に存在した民意代表機関。現在は廃止)を改革したいと訴えていましたが、実は李登輝氏も同じような考えを持っていることがわかりました。「私はあなたたちより年上で様々な経験をしてきた。だから私の言うことを聞きなさい」というような高圧的な態度では決してなかったのです。

 

李登輝氏は学生たちと平等な立場に立って対話をしていたので、座り込みをしていた学生たちには、「自分たちが民主化のプロセスに参加している」という達成感がおそらくあったと思います。事態はそれほどすぐに改善したわけではないのですが、学生たちは少なくとも「自分が参加したことによって、少しずつ変化が起き始めた」という実感を持ったのだろうと思います。

 

この野百合学生運動に参加した若者の中から、その後、政治の世界に入った人たちは数多くいます。この運動から2014年のひまわり学生運動まで、それぞれの時代に若者たちは「不公平を感じれば立ち上がり、社会に参加することで変革を成し遂げてきた」という達成感を得てきました。これもまた、台湾の若者たちがフレキシブルさを身につける契機になっているのでしょう。

 

 

 

 

オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

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