こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「自分の意志を堅持する、貫く」

権力に縛られない「保守的なアナーキスト」という私の立場

 

日本のメディアにおいて、私はしばしば「保守的な無政府主義者」と表現されています。英語のアナーキスト(anarchist)を直訳して「無政府主義者」としているのかもしれませんが、私は無政府主義者ではありません。

 

無政府主義とアナーキズムは、同じではありません。私が考える「アナーキスト」とは、決して政府の存在そのものに反対しているのではないのです。政府が強迫や暴力といった方法を用いて人々を命令に従わせようとする仕組みに反対する。つまり、「権力に縛られない」という立場です。

 

アナーキストとしての私は、どんな場面であれ、「権力や強制といったものをどのように平和的に転換させればいいのか」「皆がお互いを理解し合った新しいイデオロギーに持っていくにはどうするのがいいのか」といったことに関心を持っています。もちろん、古くさい権威主義や上から目線の命令、高圧的な態度などにはまったく興味がありません。

 

政府が強迫や暴力といった方法を用いて人々を命令に従わせようとする仕組みに反対する。つまり、「権力に縛られない」という立場だという。
政府が強迫や暴力といった方法を用いて人々を命令に従わせようとする仕組みに反対する。つまり、「権力に縛られない」という立場だという。

たとえば、ある企業が強迫的な手段や暴力的手段によって社員を無理やり命令に従わせていたら、アナーキストはそのやり方を変えることを望むでしょうし、強迫や暴力的な手段により作られた階層にも反対します。

 

無政府うんぬんというよりも、命令などの強制力がないことが重要なのです。こうした強制力を伴う主従関係は、どんな場所にも存在し得るわけですから、政府の存在の有無とは無関係です。

 

だから、アナーキストを「無政府主義者」と言い換えることは、本来の意味を狭めることになってしまうと思います。

 

一方、「保守的」ということについて言えば、私の立場は、日本語の「保守」というより中国語の「持守」に近いと思います。「持守」には「自分の意志を堅持する、貫く」といった意味があります。

 

たとえば、ベジタリアンになると宣言した人が、山海の珍味を目にしても見向きもしないのであれば、その人は自分のこだわりを貫き通したということです。また、修行者であれば戒律を守り、やってはいけないことは意志を貫き通してやらないというのが「持守」です。私もそういう「持守」という態度を大事にしています。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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