「経済と人間性」両立の鍵は本能的な衝動を満たすこと
ということで、ここでは外国語の力を借りることにしましょう。一見すれば対照的に見える「必要」や「奢侈」が、実は「未来の利得・効用のために消費行動を手段化する」点で共通しているのであれば、それは日本語で「手段的」「功利的」となり、これを英語で表現すれば「インストルメンタル=Instrumental」ということになります。
一方でその逆、つまり「いま、この瞬間に感じられる愉悦・官能という利得によって行為のコストが回収される活動」という考え方を、アメリカの社会学者、タルコット・パーソンズが唱えた「コンサマトリー」という概念で表したいと思います。
コンサマトリーというのは、なかなか日本語で表現するのが難しい…まあだからこそ、わざわざ外国語を引っ張り出してきたわけですが、これをインストルメンタルとの概念対比で整理すれば下図のようになります。
私たち人間が「生の充実」をもっとも強く感じるのが「人間性に根ざした衝動」を解放した時なのだとすれば、すでに十分な文明化を果たした私たちの社会において、人々が、本質的な意味でより豊かに、瑞々しく、それぞれの個性を発揮して生きていくためには、各人の個性に根ざした衝動を解放しなくてはなりません。
しかし、現在の社会では、このような「人間を人間ならしめる」衝動的欲求の多くが未達になっており、そしてより重大なことに、その「未達になっていること自体」にあまりにも多くの人々が無自覚です。先述した通り、市場が「未達の欲求」があるところに生まれるのであれば、これまでの経済とは異なる位相の広大な市場が、潜在的には生まれることになります。
私はまさにいま、このような「人間的衝動」に根ざした欲求の充足こそが、経済と人間性、エコノミーとヒューマニティの両立を可能にする、唯一の道筋なのではないかと考えています。
山口周
ライプニッツ 代表
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