新型コロナウイルスの大流行は、人々の生活を一変させました。未だ収束の目途は立ちませんが、1つ言えるのは「コロナ流行前の生活には戻れない」ということ。たとえば、ほんの1年前までは当然だった「毎日の出社」は、もはや面倒に感じる人も少なくないでしょう。アフターコロナを迎えたとき、私たちはどのような世界を生きることになるのでしょうか。それを考える大前提として、「コロナ前の社会」について改めて見つめ直してみましょう。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

もはや「経済成長」と「幸福」は無関係

そのような「経済的に勢いのあった時期」の「幸福度」や「満足度」のスコアが、「経済的に停滞した時期」のスコアより明確に低いということを、私たちはどのように解釈すればよいのでしょうか。

 

過去30年にわたって経済は全般に低調に推移しているのに「生活満足度」や「幸福度」は大きく改善しているという事実は、私たちに重大な洞察を与えてくれます。それは「経済をこれ以上成長させることに、もはや大きな意味はない」ということです。この洞察は、この調査の時系列の結果を確認してみればさらに明確になります。

 

図表4を見てください。

 

出所:世界価値観調査ウェブサイト
[図表4]世界価値観調査における日本の幸福度スコアの推移 出所:世界価値観調査ウェブサイト

 

図表4のグラフは、先ほどの世界価値観調査の日本の「幸福度」に関するデータを時系列で並べたものです。このグラフを見れば、日本の経済的覇権がピークを迎えた1990年を境目にして、経済的衰退が明らかとなった「その後」の時期に幸福度のスコアはむしろ逆に10ポイント以上跳ね上がっていることがわかります。

 

このデータを素直に解釈すれば「経済」と「幸福」にもはや大きな関連はないという当たり前の結論に至ることになります。私たちは、長年にわたる経済的成長の末に、生存のための物質的基本条件の獲得という、人類が長いこと望んでいた夢を実現し、いまや大多数の人が「総じて幸福だ」と言える社会…おそらくはかつての人々がユートピアとして夢想したものに近い社会を築きました。これは素晴らしい偉業といえるでしょう。

 

山口周
ライプニッツ 代表

 

 

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山口 周

プレジデント社

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