コロナ流行前…人類史上はじめて「物質的貧困」を解消
最初に確認しておきたいのが、私たちの社会がすでに「物質的な生存条件の確保」という課題をすでに終了している、という点です。古代以来、私たちの社会を長い間、苛みつづけた「物質的貧困」は、コロナ発生以前の段階においてすでにほぼ解消されています。
図表1をみてください。
これはNHK放送文化研究所が1973年以来、5年ごとに実施している「日本人の意識調査」の「生活満足度」に関する回答を、1973年と2018年とで比較したものです。個人生活、社会生活の両面において物質的満足度が非常に高まっていることがわかります。
私たちの社会は古代以来、常に物質的貧困という問題に苛まれつづけてきたわけですが、この調査結果は、大多数の人々にとってその問題がすでに解消されていることを示しています。このような実感を社会の大多数の人々が得るようになったというのは人類の歴史上、はじめてのことです。
同様の結果は別の調査からも示されています。図表2を確認してください。
これは1981年以来、世界各国で実施されている「世界価値観調査」の「生活満足度」の項目に関する日本の結果を、1981~1984年と2010年とで比較したものです。パッと見てすぐに気がつくのが、「山の頂上が大きく右側に動いている」ということでしょう。1981~1984年の調査で山型のピークとなっていた「6」から、2010年の調査では「8」へとピークが2段階移動しています。
これはつまり、生活に高い満足度を感じている人が大きく伸長していることを示すわけですが、気になるのは「5」以下のスコア、つまり「生活に低い満足度を感じている人」の比率にはほとんど変化がない、ということです。
ここ30年で、私たちの社会は「高い満足度を感じる人を大きく増やす」ことには成功したものの、「低い満足度を感じる人を大きく減らす」ことには失敗してきた、ということがここから読み取れます。これはつまり「取り残されている人々がいる」ということで、もちろん大きな社会課題となります。この点については、後ほどあらためて触れることにして前に進めましょう。
バブル崩壊以降、「満足度」「幸福度」はむしろ改善
生活満足度が大きく高まった結果として、ということなのでしょうか、同じ「世界価値観調査」の「幸福度」の日本のスコアも、同期間で大きく伸びています。図表3を見てください。
このグラフから1981~1984年から2010年のあいだに3つの大きな変化が起きたことがわかります。
1.「とても幸福」と答えた人が15%から32%へと倍以上に増えている
2.「やや幸福」と「とても幸福」を合計した数値は77%から86%へと増えている
3.「幸福ではない」「まったく幸福ではない」を合計した数値が16%から10%へと減少している
要するに「総じて幸福だ」と感じる人がとても増え、「総じて不幸だ」と感じる人が減ったということです。この数値を見て、不思議に思う人も多いのではないでしょうか?
1981~1984年といえば、日本経済は絶頂期の前夜にあたる時期です。日本的経営の強さを礼賛したエズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーになったのは1979年のことで、この時期以降、日本経済は1989年のバブル経済の頂上に向けて駆け上がっていくことになります。