「色覚異常」とは、色を認識する力が弱い症状のこと。「色を判別しずらい」という人がほとんどです。とはいえ日常生活において不便を強いられることに変わりはありません。色覚異常の有無によって、色の見え方はどのように変わるのでしょうか? シミュレーションしてみましょう。

軽度でも「色の見え方が違う」という状態は極めて不便

先天色覚異常であっても、その見え方を理解しておけば、本人もその家族も間違いやすい色について注意を払うことができ、日常のトラブルを回避することができるので、安心してください。

 

家族としては、そもそも先天色覚異常の人は、どんな色をどんな時に間違えるのかをある程度知っておくと、より色覚異常の人の生活を支えやすくなります。

 

本人が口にはしなくても苦労し、劣等感を抱えて生きていかなくても良いようにするためには、学校における初期教育が重要で学校の先生には特によく理解してもらう必要があります。

 

だからこそ、せめて小学校に上がる前に、色覚検査を受け、色覚異常に気づいてほしいのです。小学校に上がる前でも、強度の色覚異常は検査によってわかります。

赤とオレンジ、緑と黄緑はどれほど「似た色」か?

色覚異常を抱えた人の正確な感覚はわかりませんが、色に対する傾向に関しては、患者さんに共通していえることが多くあります。

 

いくつかの色を並べて、似ている色と似ていない色に分けてもらうと、正常な人と先天色覚異常の人では分け方が明らかに異なります。たとえば、赤と橙、緑と黄緑という似た色を見せると、正常な人はその通りに区別しますが、先天色覚異常の人のほとんどは、赤と緑、橙と黄緑という分け方をするのです。

 

図表1は、正常な人の色覚をマンセルの色相環を使って表したものです。黄色と青紫、緑と赤など、距離が遠いほど異なる色と認識しやすい「反対色」となります。

 

[図表1]「正常色覚の見分け方」をマンセルの色相環で表現すると…

 

ところが、先天色覚異常の人では、この円が図表2のような楕円になり、強度であるほど円が細くなります。細くなれば、遠い位置にあったはずの赤と緑の距離が近づくことになります。

 

[図表2]「色覚異常の見分け方」をマンセルの色相環で表現すると…

 

近い距離になるということはすなわち、異なる色として認識しづらいことを意味しており、この楕円状で近づいた横方向の色を「混同色」と呼びます。より具体的にいえば、黄緑と橙、緑と赤、青と紫などです。

濃淡、サイズ、明るさによっても「色の判別」が困難化

混同色は先天色覚異常の人にとってとても見分けにくい色であり、その色が薄かったり(彩度が低い)、暗かったり(明度が低い)するとさらに見分けることが困難になります。

 

こうした傾向を踏まえ、色覚検査表というものはどれも混同色の理念にもとづいて、さらにトリックを施し、色覚異常の人に見えにくいように作られています。

 

最もポピュラーな検査表のひとつである「石原Ⓡ色覚検査表」を例にとって説明すると、たとえば図表3では、数字が橙色、背景が黄緑で、どちらも濃淡のある大小のドットでできており、そこに数字とも背景とも関係のない青のドットが散らしてあります。

 

※こちらの表はサンプルです。このサンプル表での色覚検査は行えません。 ※出典:(公財)一新会、「石原®色覚検査表」より
[図表3]石原Ⓡ色覚検査表 ※こちらの表はサンプルです。このサンプル表での色覚検査は行えません。
※出典:(公財)一新会、「石原®色覚検査表」より

 

正常色覚では橙色と黄緑がはっきりと区別できるので、ドットの濃淡や青のドットで邪魔をされても、そこに描かれている数字を読むことができます。しかし色覚異常だと、橙と黄緑がよく似て見えるので、濃淡や散らばった青のドットに惑わされ、数字を読むことが難しくなります。

 

先天色覚異常のほとんどは、赤色の判別がしにくい「1型」と、緑色の判別がしにくい「2型」で、この両者は色間違いのパターンはほとんど同じですが、赤色の見え方には大きな違いがあります。

 

1型の人では、赤い色や光を、大変暗く感じています。スペクトルで考えると、長い波長に対しての感度がかなり悪いということになります。

 

この特性により、信号灯の赤やテールランプが見づらいということが起きます。ただし赤が見えないわけではなく、暗く映るため見つけ出すのが正常な人よりも遅くなると考えられます。

 

直径1.5ミリの円状に切った小さい赤い色紙を、白い紙の上に貼って見せ、その色を答えさせるという実験では、1型色覚のほとんどすべてが、灰色か黒と答えました。対象物が小さいとさらに、赤色がわかりづらくなります(⇒【画像:1型、2型…色覚異常がある場合「赤いチューリップ」はこう見える】)。

 

その他に、灰色と、赤および青緑や、赤と黄色と緑の区別もつきづらく、明るさを同じにするとよけいに混同してしまいがちです。

 

反対に2型色覚では赤い色を暗く感じてはいません。

 

1型色覚と2型色覚との共通点は、赤と黄色と緑の区別がつきづらいことです。簡単な検査だけでは両者の区別がつきづらいことから、ひとまとめで「赤緑色盲」などという総称で呼ばれていました。現在では、正確な検査法ができたことから精密検査を受ければ、両者を分離することは100%近く可能になりました。

 

家族がこうした傾向を知っておくことで、たとえば家の中にあるものの色を見えやすいように変えたり、区別しづらい色の服を着なければならない時にアドバイスしたりといったサポートができます。また本人も色覚異常を自覚することで正常者に聞くという習慣がつきます。それにより、日常生活のトラブルもまた、未然に防ぐことができるはずです。

 

 

市川 一夫

日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士

 

 

※本連載は市川一夫氏の著書『知られざる色覚異常の真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

知られざる色覚異常の真実 改訂版

知られざる色覚異常の真実 改訂版

市川 一夫

幻冬舎メディアコンサルティング

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