こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「スマホで使いやすい中国語辞典を」

スマホで使える字典作りから始まった「萌典」プロジェクト

 

デジタルの素養を身につけるために具体的には何が必要なのか。

 

私自身の経験から言えば、「多くの人が共通して関心を持つ特定のテーマを見つけ、そこにある問題をどうすれば解決できるかを一緒に考えてみる」のです。その作業を通じて、自然とこうした素養が身についてきます。

 

たとえば、「どうすれば、もっと使い勝手のよい百科事典を作れるだろうか」というようなテーマについて考えてみるとすると、「みんなで一緒にWikipediaを編集していこう」といった一つの方向性が出てきます。あるいは、もっと便利な地図が欲しければ「みんなでストリートビューを備えた地図を作成しよう」と考えるかもしれません。

 

さらに、今よりも高いレベルの公共サービスが必要だと思えば、「g0v」(零時政府)のような団体に加入するのもいいでしょう。

 

「スマホで使いやすい中国語辞典を作りたい」がきっかけだったおいう。(※写真はイメージです/PIXTA)
「スマホで使いやすい中国語辞典を作りたい」がきっかけだったおいう。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

要するに、まず同じ関心を持った人たちを見つけ、そこからみんなの役に立つものを一緒に作り出すのです。結局のところ、自分自身が行う価値があると思ったことを行うこと、それをすることによって相互交流したり助け合ったりすることが、素養を育てる最良の方法となります。

 

私が実際に関与した事例を一つ挙げてみましょう。

 

「萌典(モンディエン)」(https://www.moedict.tw/)というオンラインの中国語辞典があります。これは「g0v」を通して実現したプロジェクトの一つです。「萌典」を作ることになったのは、スマートフォンで使いやすい中国語辞典が欲しいと思ったからです。友人から、「台湾の教育部が製作したネット上の辞典はパソコンでしか使えない」という問題提起されたことがきっかけになり、それならスマホでも使えるように辞典を改造しようということになりました。

 

辞典を設計し始めてみると、中国語だけではなく、客家語や台湾語も入れられることができるし、さらにはドイツ語やフランス語、英語など、複数の言語に対応した辞典にできることがわかりました。私たちはオープンソースの方式で進めていたので、アミ族の人がアミ語辞典まで入れて改造しました。

 

最初、私たちが解決しようとした問題は「スマホで使いやすい中国語辞典を作りたい」という部分のみだったのですが、オープンにシェアできる方法にしたので、誰もがこのプロジェクトに参加することができたのです。それも私たちに同意を求める必要もなく、自分たちの問題を自分たちで考えることが自由にできました。だから、アミ族の辞典を入れたい場合、自分で入れればそれでいいのです。

 

その結果、一つの言葉を調べるときに多数の言語が参照できる辞典が完成しました。たとえば、「萌典」で「完善(ワンシヤン)」(「完璧」という意味の中国語)という単語を入力すると、台湾語、客家語、英語、フランス語、ドイツ語の単語が出てきます。

 

さらに、「善」という字をクリックすると、「良い」とか「善良だ」という意味だという説明が出てきて、いくつかの例文も表示されます。さらに、台湾語では何というか、「善」という字を使った諺にはどんなものがあるか、といった内容が表示されます。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

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オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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