日本で亡くなる人は、年間130万人。亡くなる人の数だけ相続がありますが、お金が絡む話にはトラブルはつきものです。今回は社長を継いだ長男と長女・次女の間で起こったトラブルについて、山田典正税理士が解説します。

解説:「株式を兄弟姉妹で分散させない」は鉄則

Aさんの行動力には目を見張りますね。最後は無事、義姉から株式もすべて買い取ることができて、会社も古参の社員が支えてくれているということで何よりです。ある意味では、Aさんはこの苦難があったからこそ会社にかける想いを強く持てたのかもしれません。

 

このような経営者の交代劇のケースでは、いきなり素人が会社のトップに立つわけですから、逆に古参とのトラブルが発生することも少なくないです。三代目が「会社を潰すわけにはいかない!」という想いで経営をし、Aさんも三代目の想いに全力で応えたからこそ、古参の方々も会社を離れることはなく、Aさんを支えてくれているのではないでしょうか。ただし、ここは結果論ですので、専門家として法律的な側面から事前の対策が打てなかったのかを検討していきます。

 

まずは、お分かりかとは思いますが、先代である義父が亡くなったときの株式の承継の仕方が良くなかったことが発端です。良く言われることではありますが、株式の承継においては極力兄弟姉妹で分散をさせないほうが良いというのは鉄則です。とくに、複数人で経営に携わるという特殊な状況でもなく、会社の跡継ぎは長男が決まっていたわけですから、その時点でできるだけ早期に株式の承継を計画して対策しておくべきであったと思います。

 

実際に事業承継の相談というのは数多くありますが、できるだけ早期に株式を承継することをおすすめしています。遅くとも代表が変わったタイミングでは全株式の承継をしたほうが良いです。先代と接しているとこれを嫌がる人もいますが、筆者はすべてを承継したほうが良いと強くすすめます。また、代表が交代する前であっても後継者が決まっているようであれば、できるだけ早期に株式を後継者に全株相続させるような遺言書を作成すべきであると考えます。

 

なぜ、株式の承継を分散させないほうが良いかというと、これは正にこの事例がそのケースですが経営に置いてマイナスに働くことが多いからです。株式を持つということは会社の議決権を持っているということであり、大きな経営判断をする場合には、株主の同意を得なければなりません。最低でも普通決議が取れる50%超、さらには特別決議ができる2/3超は最低でも後継者が所有すべきですし、それだけではなく、少数株主であったとしても、たとえばM&A会社を売却するなどの際に、それが原因で揉めてしまい案件が決まらないなど、トラブルの元にしかなりませんので、やはり分散させることはおすすめできません。

 

さらにはその状態で会社が50年、100年と業歴を重ねた時にその株式は次の代、さらにまた次の代へと引き継がれていきます。そうなると兄弟姉妹という関係から、いとこ、はとこ、と引き継がれていくことになり、関係性としては益々希薄となります。そうなってしまうと、ほぼ他人同士の関係性であり、もはや収拾をつけるのは困難となってしまい、裁判まで発展するケースもあります。

 

 

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※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

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