「トヨタ生産方式」と小さな積み重ねにより急回復
河合満(執行役員、チーフ・モノづくり・オフィサー)はリーマン・ショックの後、急回復できたのは「トヨタ生産方式をちゃんと運用したから」と言っている。
止めるべきラインは止め、止めるべき拡張計画も止めた。原価を低減し、いい車を安く作ることができるようにした。そうして、経済が回っていた中国など新興国マーケットで新車の販売を伸ばしていったのである。
危機から回復するには原則を原則通りに運用する。原価を低減するとともに、費用を減らす。それを毎日やる。
今回の新型コロナ危機ではリーマン・ショックの反省を生かして、フレキシブルな対応をすることができた。それが赤字決算に陥ることがなかった理由だ。
河合は「あの時に比べると、うちは体力がついた」と表現する。
「リーマン・ショックの時は赤字が4600億。前年より1割5分も生産台数が減って、大きな赤字になった。それがコロナ禍では生産台数が前年よりも2割減ったにもかかわらず、1兆3000億の黒字を出せることになった。合わせて1兆7000億円ぐらいの差が出たわけだ。
なにしろリーマン・ショックから10年で損益分岐点を200万台くらい下げることができたのだから、大きなことだ。
体力をつけるには作り方を改善するしかないんだ。商品の売値は変わらない。原材料の仕入れ値だって変わらない。企業体力をつけるには作り方を変えて安くするしかない。そして安く作るとは、少ない人数でいいものを作ることだ。
僕ら経営側は生産性をこれだけ上げろ、総費用をこれだけ下げろという、ある程度の目標は出す。しかし、それに対して現場のみんなが自分から、よし、これぐらいカイゼンしよう、人工(にんく)も減らそう、原価を安くしようと考えることが重要だ。
軍手1枚が汚れたら捨てるのじゃなくて、洗ってもう1回、違うところで使う。工具を入れるビニール袋を今までは捨てとったけど、そのビニール袋を他で使う。
そういう小さなことの積み重ねですよ。それをひとりひとりが毎日、自分からやる。結果としてそれが黒字に結びついた。赤字からの回復は、大きなことを1回やったわけじゃない」