2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けたが、トヨタ自動車の2021年3月期連結決算は売上高27兆円、純利益は2兆2452億円と急回復した。命運を分けたのは、トヨタ自動車の優れた「危機対応力」にあった。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

「トヨタ生産方式」と小さな積み重ねにより急回復

河合満(執行役員、チーフ・モノづくり・オフィサー)はリーマン・ショックの後、急回復できたのは「トヨタ生産方式をちゃんと運用したから」と言っている。

 

止めるべきラインは止め、止めるべき拡張計画も止めた。原価を低減し、いい車を安く作ることができるようにした。そうして、経済が回っていた中国など新興国マーケットで新車の販売を伸ばしていったのである。

 

危機から回復するには原則を原則通りに運用する。原価を低減するとともに、費用を減らす。それを毎日やる。

 

今回の新型コロナ危機ではリーマン・ショックの反省を生かして、フレキシブルな対応をすることができた。それが赤字決算に陥ることがなかった理由だ。

 

河合は「あの時に比べると、うちは体力がついた」と表現する。

 

「リーマン・ショックの時は赤字が4600億。前年より1割5分も生産台数が減って、大きな赤字になった。それがコロナ禍では生産台数が前年よりも2割減ったにもかかわらず、1兆3000億の黒字を出せることになった。合わせて1兆7000億円ぐらいの差が出たわけだ。

 

なにしろリーマン・ショックから10年で損益分岐点を200万台くらい下げることができたのだから、大きなことだ。

 

体力をつけるには作り方を改善するしかないんだ。商品の売値は変わらない。原材料の仕入れ値だって変わらない。企業体力をつけるには作り方を変えて安くするしかない。そして安く作るとは、少ない人数でいいものを作ることだ。

 

僕ら経営側は生産性をこれだけ上げろ、総費用をこれだけ下げろという、ある程度の目標は出す。しかし、それに対して現場のみんなが自分から、よし、これぐらいカイゼンしよう、人工(にんく)も減らそう、原価を安くしようと考えることが重要だ。

 

軍手1枚が汚れたら捨てるのじゃなくて、洗ってもう1回、違うところで使う。工具を入れるビニール袋を今までは捨てとったけど、そのビニール袋を他で使う。

 

そういう小さなことの積み重ねですよ。それをひとりひとりが毎日、自分からやる。結果としてそれが黒字に結びついた。赤字からの回復は、大きなことを1回やったわけじゃない」

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)
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トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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