2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けたが、トヨタ自動車の2021年3月期連結決算は売上高27兆円、純利益は2兆2452億円と急回復した。命運を分けたのは、トヨタ自動車の優れた「危機対応力」にあった。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

「心はのんびりと、脳と身体は活発に」対処

「トヨタがどれほど危機に対応できるのか。それは平時にはわからない。リーマン・ショックのような危機がもう1度、来た時に、初めて力がついたかどうかがわかる」

 

これは豊田章男の言葉だ。2009年に社長に就任して、会社をリーマン・ショックから回復させ、同時に品質問題への対応を行った。アメリカの上院公聴会に呼ばれて品質問題への証言を行ったのである。

 

その後、一息ついたと思ったら今度は東日本大震災が起こる。続いて、洪水、台風、地震…。彼が社長になってから気の休まる時期はなかったのだが、その間、トヨタの危機管理能力は上がっていた。

 

リーンな体制が継続しているため、危機管理が現場の通常業務のなかに組み込まれたともいえる。企業体力がついたとは、社員の大多数が日々、危機管理に近い業務をやっているからだ。

 

部品在庫、完成車在庫が少ない体制で仕事をしていれば協力会社、販売会社の動静に関心を持たざるを得ない。また、危機になれば支援に行くと決まっているから、災害が起こるたびに情報を集める。

 

災害を他人事として受け止めるのと、「自分が支援チームに入って現場へ行くかもしれない」と考えるのとでは、おのずから危機への対処が変わってくる。

 

危機に対処するには、心はのんびりとさせて、脳と身体は活発に動かすことだ。

 

事実、同社の危機管理にあたる人材を見ていると、平時と同じように仕事をする。鉢巻きを締めて腹に力を込めて、真っ赤な顔をして被災地へ支援に入るのではない。ビジネスバッグに水筒と着替えを入れ、安全靴を履いた姿で飄々と出かけていく。

 

トヨタでは「危機は大きな変化」と考えているから、最前線の社員も血相を変えることはない。

 

豊田章男は「自動車会社は百年に1度の大変革期」と言って、社員に変化への対応を促してきた。日頃から「変わらなきゃいけない」と言ってきた同社の教育方針がすなわち危機管理だったのである。

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トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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