第三者の債務を担保するため、信託財産へ抵当権をつけられるか

信託には柔軟な事業承継を可能とする利点がありますが、反面、信託行為により禁止される事項も数多く存在します。信託は便利ですが、その特性をしっかり理解して活用しなければ後々自分の首を絞めることにもなりかねません。弁護士の伊庭潔氏が信託と抵当権、連帯保証の関係を実務的な視点からわかりやすく解説します。※本記事は、『信託法からみた民事信託の手引き』(日本加除出版)より抜粋・再編集したものです。

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父が委託者兼受益者、長男が受託者の民事信託のケース

Q:受託者は、第三者の債務を担保するために、信託財産に抵当権を設定することはできますか。

 

  1:想定されるケース 

 

例えば、父が委託者兼受益者、長男が受託者となっている民事信託において、受託者である長男が自分自身の経営する会社の債務を担保するために、信託財産の属する不動産に抵当権を設定することを希望するケースが考えられます。

 

このような場面では、検討すべき以下の4つの観点になります。


第1は、信託目的に合致しているのか。
第2は、受託者の権限の範囲内か。
第3は、受託者の忠実義務に反していないか。
第4は、受託者の善管注意義務に反しないか。

 

 2:信託目的 


受託者である長男が経営する会社について、現経営者は長男ですが、以前は委託者である父が経営者であったケースが想定されます。

 

そのような場合において、委託者も、その会社の安定的経営を望んでいることが通常です。信託財産をその会社の債務の物上保証にすることは、委託者の希望に合致していると考えられることは多いでしょう。

 

しかし、民事信託はあくまでも信託目的にしたがって運営されるものです(信託法2条1項参照)。信託目的に照らして検討すると、受託者による物上保証が信託目的に合致しないという場合には、目的外行為として、受託者は信託財産に抵当権を設定することはできないという結論になります。

 

したがって、第三者の債務を担保するために、信託財産を物上保証することを想定している場合には、それが信託目的に適合した行為であるといえるように信託目的を設定しておく必要があります。

 

 3:受託者の権限 

 

次に、受託者による信託財産に対する抵当権の設定がその権限の範囲内であることが必要になります。

 

受託者の権限については、「信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有する。」と規定されています(信託法26条本文)。そのため、前記2に記載したとおり、信託目的に照らし、受託者の権限の範囲外と判断される場合には、受託者は信託財産に抵当権を設定することはできません。

 

また、信託法26条ただし書は、「ただし、信託行為によりその権限に制限を加えることを妨げない。」と規定しています。そのため、信託目的との関係で、信託財産に対する抵当権の設定が受託者の権限の範囲内と判断される場合でも、信託条項によって、明示的に受託者による信託財産に対する抵当権設定権限が制限されている場合には、受託者は信託財産に抵当権を設定することはできないという結論になります。

 

 4:受託者の忠実義務 

 

(1)間接取引の禁止

 

信託法30条は、受託者が専ら受益者のためにのみ行動すべきとする忠実義務を定めています。

 

そして、信託法31条1項各号において、典型的な忠実義務違反の場面、すなわち、受益者の利益と受託者の利益が相反する行為や受託者が受益者に対して負う忠実義務と第三者に対して負う義務の間に相反がある行為を利益相反行為として禁止しています。

 

そして、受託者が代表者を務める会社は受託者の利害関係人に該当するところ、この利害関係人と受益者の利益が相反する行為はいわゆる間接取引として禁止されています(信託法31条1項4号)。

 

(2)禁止の例外

 

ア 信託行為の許容の定め

 

このように、第三者の債務を担保するために信託財産に抵当権を設定する行為は原則として禁止されていますので、これを行うために、信託行為に当該行為を許容する定めをおく必要があります(信託法31条2項1号)。

 

この信託行為の定めとしては、例外として許容される行為が他の行為と客観的に識別可能な程度の具体性をもって定められ、かつ、例外として許容することが明示的に定められていなければならず、たとえば、『自己取引ができる』という程度の定めでは足りないとされています(『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』125頁注8〈商事法務、2008年、寺本昌弘〉)。

 

上記の信託目的の定め方とも関わることですが、要するに、委託者が例外的に当該行為を許容していた(委託者の主観的希望と合致した行為である)と明確に判断し得る信託行為の定めが必要ということになります。

 

イ 受託者の承認


利益相反行為を禁止するのは、受益者の利益を保護するためです。そこで、信託行為に許容する定めがなかったときでも、重要な事実が開示されたうえで、受益者自身が利益相反行為を承認するときには、その禁止は解除されます(信託法31条2項2号)。

 

 5:受託者の善管注意義務 


これまでの検討から、受託者が第三者の債務を担保するために信託財産に抵当権を設定することが可能であると判断されるとしても、それはどのような条件でも良いということではありません。

 

民事信託は、あくまでも受益者の利益のために運営される必要があります。そのため、受託者が無償で第三者の債務を担保するため信託財産に抵当権を設定した場合には、受託者の善管注意義務に違反することになります(信託法29条2項本文)。したがって、第三者の債務を担保するために信託財産に抵当権を設定することに見合うだけの相当な担保提供料を受領しないなど、事後的にみて妥当な取引であったと判断できない場合には、受託者の善管注意義務違反の問題が生じることになります。

 

 6:受託者の固有債務のために、信託財産に抵当権を設定するケース 

 

このケースについても、上記2から5までに議論が当てはまります。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

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下北沢法律事務所 弁護士
中央大学研究開発機構 機構教授
日本弁護士連合会 日弁連信託センター
日弁連高齢者・障害者権利支援センター
ひまわり信託研究会

早稲田大学法学部卒。得意分野は民事信託と交通事故。主な著書に『信託法からみた民事信託の手引き』(日本加除出版)、『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』(日本加除出版)、『パッとわかる 家族信託コンパクトブック-弁護士のための法務と税務』(第一法規)、『ヒアリングシートを活用した遺言書作成 聴取事項のチェックポイント』(新日本法規出版)などがある。

著者紹介

連載相続に強い弁護士の解説でしっかり分かる!民事信託の「正しい」活用法

信託法からみた民事信託の手引き

信託法からみた民事信託の手引き

伊庭 潔(編著)

日本加除出版

日弁連信託センター長を中心とした執筆陣による「正しい実務」に役立つQ&A121問を収録! ●好評図書『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』(2017年3月刊日本加除出版)の姉妹本。分かりやすさと網羅性の2つを調和…

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