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受託者は「第三者の債務」を連帯保証できるか?
1:問題の所在
信託財産について、受託者が第三者の債務のために信託財産に抵当権を設定する行為が信託法上の利益相反行為(間接取引)に該当し、受託者がこれを行うためには、信託行為にこれを許容する定めなどが必要であることは、前項において解説しました。
では、受託者が第三者の債務を連帯保証することはできるでしょうか。
具体的には、受託者が第三者の債務を連帯保証し、その保証債務を信託財産責任負担債務とすることを信託法が許容しているかという点が問題になります。
2:信託法の考え方
(1)信託における債務の取扱い
信託の対象となる財産は積極財産に限られています。
そして、「信託前に生じた委託者に対する債権」に係る債務を信託に組み込むには、受託者が民法上の債務引受を行い、かつ、信託行為において、当該債務を信託財産責任負担債務とすることが要求されています(信託法21条1項3号)。また、解釈上、委託者の負担する債務について、信託設定後、受託者が信託事務処理の一環として、民法の債務引受をすることにより、当該債務を信託財産責任負担債務とすることは認められています(『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』84頁〈商事法務、2008年、寺本昌弘〉)。これは信託法21条1項5号を根拠としているものと理解されます。
いずれにせよ、受託者の信託財産責任負担債務を負うには、信託法21条1項各号の根拠規定がなければなりません。
(2)信託法21条1項3号
このように、信託法21条1項3号は、財産の拠出者である委託者の債務を信託に組み込むことは予定していると解されます。しかし、他方で、同条は、委託者が負担する債務以外の債務(同項各号の場合を除く)を信託財産責任負担債務とすることは予定していないと考えられます。
したがって、信託法21条1項3号によっては、受託者が第三者の債務を連帯保証して保証債務を負担し、当該債務を信託財産責任負担債務とすることはできないということになります。
(3)信託法21条1項5号
信託法21条1項5号の「信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利」について、具体例として、「信託財産である賃貸建物を修繕するために負担した債務に係る債権」などが挙げられます。そして、この受託者の行為については、客観的に受託者の権限の範囲内であること及びその行為により生じる経済的な利益・不益を信託財産に帰属させようとする受託者の主観的意思があることが必要とされています(『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』85頁〈商事法務、2008年、寺本昌弘〉)。
ところで、受託者が第三者の債務を連帯保証するということは、第三者の債務を担保するために、受託者が人的な信用供与を行っているということになります。前記のとおり、信託法21条1項5号を適用するには、客観的に受託者に権限があることが必要とされます。
しかし、受託者による人的な信用供与行為は、第三者の債務に関し受託者が全面的に責任を負うということを認めるものであり、その行為が受益者の利益になることを想定することは困難と思われます。それゆえ、通常、受託者が第三者の債務を連帯保証することは、信託目的に照らし受託者の権限に含まれるものではないと考えられます。
また、そもそも信託法は信託財産を巡る法律関係を規定したものであり、受託者が信託財産と離れて人的信用供与行為を行うことまで予定しているとすることには疑問があります。
したがって、受託者が第三者の債務を連帯保証することは、その権限内の行為とはいえず、この条項も根拠規定とすることはできないと考えられます。
(4)信託法21条1項9号
信託法21条1項9号の「第5号から前号までに掲げるもののほか、信託事務処理について生じた権利」については、具体例として、「土地の工作物である信託財産を所有することにより負担する民法717条1項ただし書の損害賠償債務に係る債権」などが挙げられています。前記(3)で検討したとおり、受託者が第三者の債務を連帯保証することは受託者の権限に含まれず、「信託事務処理について」生じた権利に係る債務とは考えられません。したがって、この条項も根拠とすることはできないでしょう。
3:結論
以上のとおり、信託法の基本的な考え方や条文からすると、受託者が第三者の債務を連帯保証し、当該保証債務を信託財産責任負担債務にできるとする根拠規定は存在しないことになりそうです。
仮に、受託者が第三者との間で連帯保証債務を負う契約をした場合には、当該連帯保証債務は信託財産責任負担債務とはならないため信託財産を引当てとすることはできず、受託者の固有財産のみが責任財産となるということになります。
伊庭 潔
下北沢法律事務所(東京弁護士会)
日弁連信託センター
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