ただし、最近は、話し合いでの調整が難しい場合、東京家庭裁判所では、以下の考慮要素を設定して双方に主張・立証させた上で、裁判所がどちらが取得すべきか、という点を決しているようです。
1 相続人の年齢、職業、経済状況、被相続人との間の続柄等
2 相続開始前からの遺産の占有・利用状況(誰が、どのように遺産を利用していたか)
3 相続人の財産管理能力(誰がどのように遺産を管理していたか、管理が適切であったか)
4 遺産取得の必要性(なぜ遺産を取得したいのか)
5 遺産そのものの最有効利用の可能性(遺産をどのように利用・再利用するのか)
6 遺言では表れていない被相続人の意向
7 取得希望者の譲歩の有無(遺産を取得する見返りとして他の部分で譲歩できるか)
8 取得希望の程度(入札により高い値を付けたほうが取得するという意向があるか)
9 取得希望の一貫性(調停の経過から取得希望の一貫性があるか)
(以上、「家庭の法と裁判」No.12 145〜146頁より抜粋)
重要なのは「相続開始前からの遺産の占有・利用状況」
筆者が関与したケースでも、本件と同じ争点について調停で議論した経験がありますが、上記の考慮要素のなかでも、特に重要なのが、2の「相続開始前からの遺産の占有・利用状況」であり、相続開始前から占有・利用していた相続人のアドバンテージはかなり大きいと感じています(この点は、子どもの親権争いの場合に「従前の監護状況」に比重をおいて判断されているということとも重なります)。
相続開始前に、相続人の誰も占有・利用していなかった、という場合には、2以外の要素を総合考慮して、裁判所が結論を決めるということになりますので、このような場合は予測を立てるのは難しいケースが多いと思われます。
以上を踏まえると、相続後に取得を希望したい不動産等がある場合には、なるべく相続開始前から占有・利用に関わるように意識した行動が必要であると考えられます。
※本記事は、北村亮典氏監修のHP「相続・離婚法律相談」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。
北村 亮典
こすぎ法律事務所弁護士
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