中国語を流暢に話す老外(ラオワイ)が急増
中国では以前から、「天も地も怖くないが、老外(ラオワイ)が中国語を話すことは怖い」という言い回しがある。老外は日本で昔使われた「外人」のニュアンスで、必ずしも悪いニュアンスはない。
中国通で知られるオーストラリアのラッド元首相が、首相在任時、中国の大学などで流暢な中国語を用いて講演した際、よくこの表現に言及して、聴衆の喝采を浴びたことでも有名だ(ところで、同元首相は、最近の中国での講演で、「自分は中国通ではない。中国語を勉強して40年経つが、中国はますます複雑になっており、自分の中国に対する理解の程度は、むしろどんどん低くなっている。誰であれ、自分は中国通だという老外がいたら、それはみな「胡説八道」、口から出まかせだ」と述べている)。
この表現はもともと、老外が話す中国語は聞き取りにくいことを指していたが、今では、流暢に中国語を話す老外が急増し、老外で中国語が理解できないと思い込んで、老外の近くで中国語を話していて、気まずいことに遭遇することを指すようだ。中国のネット上では、その類の笑い話が多く紹介されている。
たとえば、大学内でアフリカからの留学生を見かけ、友人と「ほんとに黒いね」と話していると、留学生が「君たちはほんとに黄色だね」と言われた、あるいは、食堂でスペイン語が聞こえてきて、友人に「最近はスペインからの留学生が多いね」と話していると、その外国人がやってきて、中国語で「私はスペインではなくコロンビアだ。南米のアクセントとスペイン語のアクセントは異なる。君たちのヒアリング能力はまだまだだ」と言われた等々だ。
需要の増加で中国語教師が「黄金職業」に
海外での「漢語熱」、中国語ブームは2001年、中国がWTOに加盟して以降、その経済力向上を背景に急速に高まった。米国では2014年来、幾つかの大学が学内に設置されている孔子学院(注)の契約を延長せず、また英語を話す中国人が増え、中国語を習得するメリットが低下しており、かつての海外での「漢語熱」は終わったとの声もあるなど、やや変化はあるが、世界的に中国語を学ぶ外国人の数は増え続けている。学習者は2004年3000万人だったが、現在は1億人を超えると言われる。
これに伴い、海外での中国語教師の需要は大きく、その待遇も非常に恵まれている(米国では年収10万ドル以上もあるという)。世界で500万人教師が不足していると言われており、中国政府は、数年前から、それまでの中国に来る留学生のみを外国人向け中国語教育の対象とする受身的な姿勢から、中国語普及で外に出て行く「走出去」政策(元来は、中国企業の対外進出促進政策を指す)に転換している。
教師育成センターとして有名な中文堂(広州市中山大学敷地内に設置)によると、学生は大幅に増加、大学卒業生や一般社会人から「黄金職業」と見られている。6千万人以上の華僑向け教育も含め、中国政府は今後、海外で働く中国語教師の育成を一層強化する方針だ。
上記、海外での孔子学院設立も走出去政策の典型だ。海外で中国語への関心が高まることは、中国の政治経済、外交面での国際社会におけるプレゼンスの高まりを考えると当然と言えるが、上記米国大学の動きにも現れているように、当該国の政策による普及には一抹の警戒が伴うことも事実だろう。
(注)孔子学院は、中国政府が海外の大学などの教育機関と提携し、「中国語や中国文化の教育・普及、海外との友好関係促進を目的として」、海外に設立した非営利機関。所管する国家教育部国家漢弁によると、2015年12月時点、孔子学院は125の国・地域に500か所、うちアジア32、110か所、アフリカ32、46か所、欧州40、169か所、北米・南米18、157か所、大洋州3、18か所、孔子課堂(主に小中学校に設置)は72か国に1000か所、うちアジア18、90か所、アフリカ14、23か所、欧州28、257か所、北米・南米8、544か所、大洋州4、86か所。学生総数は190万人(2015年12月上海での孔子学院大会で言及)。日本には現在、孔子学院が14、孔子課堂が8ある。
(出所)中国教育部国家漢弁