「漢語危機」の背後にある、政治的・経済的・社会的要因とは?

今や多くの国にとって、中国は、最大あるいは2、3番目の貿易相手国。政治的にもその国際社会への影響力が増す中で、各国にとって、中国語の重要性は増している。日本人にとっても、中国語を少し学んで、多少なりとも理解できると、様々な局面で便利なことは間違いない。本連載は、中国通の財務省OBとして知られ、現在は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の独立取締役も務める金森俊樹氏が、特別な「中国語入門」講座をお届けする。最終回は、中国内で懸念される「漢語危機」について見ていきたい。

ネット用語の氾濫も深刻化

中国内では、英語を重視し国語を軽視する風潮が強く、英語学習に大量の時間が浪費されているが、大半は効果が上がっていないこと、前回の記事で述べたようなネット用語や外来語の氾濫が、国語力の低下、国語への関心の低さを加速させ、「漢語危機」を招いているとの懸念も強い。

 

中国社会青年報が2012年に行った調査では、回答者の83.6%が自身の国語能力は低下、45%はその程度が著しいと回答、15年調査では、9割が日常生活でネット用語を使用、64%がネット用語の氾濫が深刻とし、46%が国語への悪影響を懸念している。このあたりの事情は、日本と同様と言えるだろう。

 

 

言語学者は、ネット流行語に多く見られる特色として、ある事象を4文字に圧縮して、故意に誤った文字を使用することを指摘、共通点として、大半が意味不明瞭で、誤解を招きやすいことを挙げている。こうした4文字成語の代表例として、

 

「十動然拒(感動だけでは成功しない、男子学生のラブレターに、女子学生は十分感動したが、その後(然後)拒絶したという話に由来)」

 

「人艰不拆(人生はかくも苦しい(艰难)ものだから、真相は暴き出さず(不拆)そっとしておこう、流行歌の歌詞に由来)」

 

「咳不容緩(一刻の猶予もないという成語、刻不容緩と同じ発音で、刻を咳に代えた薬の広告に由来)」

 

など数多い。そして、こうした成語に真似た流行語は、言葉の意味ではなく、音や形だけを重視し、伝統的な成語の意味を変更させるもので、漢語の「単純化」「断片化」「勝手な変更(随性化)」を招いているとの批判があり、国家広電総局(日本の総務省に相当)は2014年11月、こうした流行語をテレビ番組や広告などで使用することを禁じる通知を発出、大きな議論を巻き起こした。

 

(注)「电视节目」はテレビ番組、「网络用语」はネット用語、「生拼用语」は偽造成語
(出所)2014年12月30日付光明日報より転載

知的・文化的生活を享受できない社会が原因!?

他方で、ネット流行語は社会の発展とともに不断に変化する「納新吐故」、古いものを止揚し、新しいもの、より良いものを取り入れる現象ととられることができ、単純に排斥すべきではないこと、また、寿命が短く絶えず入れ替わるネット用語の影響は限定的で、「危機」の本質は、ネット用語や外来語といった「外患」にあるのではなく、「内憂」、すなわち、なお多くの人が知的・文化的生活を享受できておらず、国語が個々人の独立した思考を表現する手段になっていないことだとの主張も国語学者を中心に多い。

 

抽象的な指摘ではあるが、本質を突いているかもしれない。仮にそうであるとすると、「漢語危機」の背後には、政治的、経済的、社会的要因があるということになり、問題は複雑だ。中国語の「外熱内冷」が指摘されて久しいが、中国が今後これにどう対応するのか、あるいは放っておくのか、「大国外交」を主張し、「中華帝国」の構築を目指すかにみえる習近平政権だけに、気になるところだ。

 

中国語も含め外国語を習得するだけなら、むしろいろいろ考えない方がよいだろう。ただ、言語の社会経済上の意味も考えることによって、新たな世界が広がる。ある程度の年齢になってから学習する場合のハンディを補って余りある特権だ。

 

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) 独立取締役

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載世界経済を動かす「現代中国」の一端が見える――財務省OBによる「新中国語入門」

本稿の記述は、必ずしも学問的裏付けがあるものではありません。また、簡体文字は原則、対応する日本語漢字で表記し、中国語発音の表記は、本来不可能で行うべきではありませんが、便宜上カタカナ書きとしました。

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