今や多くの国にとって、中国は、最大あるいは2、3番目の貿易相手国。政治的にもその国際社会への影響力が増す中で、各国にとって、中国語の重要性は増している。日本人にとっても、中国語を少し学んで、多少なりとも理解できると、様々な局面で便利なことは間違いない。本連載は、中国通の財務省OBとして知られ、現在は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の独立取締役も務める金森俊樹氏が、特別な「中国語入門」講座をお届けする。今回は、現代中国の世相を反映する「流行語」を取り上げる。

「実感できない豊かさ」を反映したものも多い

中国でも「熱詞」、流行語が時々の世相を反映し、主としてネットを通じて広まる点は日本と同様だが、急速な経済成長と深刻な所得格差からくる社会的疎外感、豊かさを実感できないことを反映したものが多いこと、腐敗汚職に関係したものが多い点が現代中国的と言えよう。この点は、連載「ネット流行語を通して見る中国社会」(こちらを参照)で指摘した通りである。ここでは、さらに補足的に、幾つかの面白いと思われる例を紹介しよう。

 

環境汚染については、昨年11月末から、北京を始め、東北部の広範な地域が最悪の大気汚染に見舞われたことは記憶に新しい。ネット上ではさっそく、習近平政権が進める「京津冀(ジンジンジー)協同発展」とはこのことだったのかとの皮肉が聞こえた。京は北京、津は天津、冀は河北省の略称で、北京、天津、河北の交通インフラや通関業務を始めとする、ハード・ソフト両面での一体化を目指す、習政権が力を入れている重要戦略のひとつだ。こうした、人々が熱詞に託した不満や怒りが、多少とも政府に本気で環境対策を進めさせる要因になっているかもしれない。景気減速の影響もあろうが、北京市環境保護局によると、本年1-5月、北京市のPM2.5発生量は前年同期比19.3%減、基準内だった日数は96日で前年同期より21日多く、重度汚染の日も1日減った(6月17日付京華時報)。

 

 

数年前から、「被○○」という言い回しが流行し、今は何でも「被時代」だと自嘲気味に言われてきた(「被」は一般的に受身を表す)。「被増長(給料等が上がったことにされている)」、「被小康(そこそこ、ゆとりのある生活ができるようになったことにさせられている)」などだが、何れも公式の発表、見解は不透明で欺瞞に満ちているとする、社会底辺の政府に対する不信感の表れと受け止められている。

 

「被就業」、学生が就職したことにさせられているという意味になるが、短期間で大卒者が急増する一方、高学歴者が希望する職はそれに見合って増えていない状況下で、新卒大学生の厳しい就職難が生じ、大学が自分の大学の卒業生への需要が大きいことを示すため、学生が知らないうちに偽の就職証明書を作成しているという現実を皮肉っている。

忽悠――繰り返される騙しや嘘を反映!?

「忽悠(フーヨー)」は、人気映画「非诚勿扰2」を契機に、2011年頃から様々な場面で使用されている。元来「物理的あるいは心理的にゆらゆらする不安定な状態」を意味する中国東北部の方言だが、「人を騙す、詐欺」といった意味で若い世代を中心に、必ずしも深刻ではない軽いニュアンスで多用されるようになった。百度百科(バイド―)は、この単語について興味深い分析を行っている。

 

曰く「忽悠があることによって、中国では、文化面で大きく発展することができ、政治面では意見の差異が生じず、政策は満場一致で決まり、社会の安定的発展、生活の質の向上、和諧社会の建設が保証されている」。もちろんこれは、多分に反語的説明でもある。「和諧社会」の建設は、周知のように、胡錦濤前政権時代のキーワードになっていた。百科では「文化は空前の発展を遂げているが、大部分は水泡にすぎない」「政治面ではひとつの声があるだけで統一されすぎており、政府が一般庶民全体に配慮するに至っていない」「新聞やネットに氾濫する情報は、何が正しく何が嘘かわからない、あるいは全部嘘かもしれない」とも指摘している。「又被忽悠了!(また騙された)」というわけだ。

 

マラリア治療に使われるアーテミシニン(中国語では青蒿素)発見で、中国生まれ、中国育ちとして、昨年、初のノーベル医学生理学賞を受賞した屠呦呦氏だが、受賞後さっそく、ネットショッピングでは、青蒿素餅といった食品の広告が多く出てきた。「青蒿素食品は神薬か、はたまた忽悠か?」と騒ぎになり、成分分析をすると、アーテミシニンなど含まれておらず、「小心被忽悠(騙されないよう気を付けろ)」がネット上で飛び交った。

 

※本連載は原則、毎週日曜日に掲載していく予定です。

 

 

本稿の記述は、必ずしも学問的裏付けがあるものではありません。また、簡体文字は原則、対応する日本語漢字で表記し、中国語発音の表記は、本来不可能で行うべきではありませんが、便宜上カタカナ書きとしました。

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